何度もあなたと口付けを 「なぁ、槐。オレとお前の身長差って四寸なんだって」
「四寸も…そう考えるとやはり大きくなりましたね、黒雪」
「だろ?って、そういう話じゃなくて!」
と、ツッコミを入れた後槐の耳元に唇を寄せた。
「四寸って差、どういう意味があるか分かる?」
「…意味なんて、あるんですか?」
「あるよ。ちゃぁんと意味がね、知りたい?」
「は、はい…」
「四寸差ってのはねーー口付けしやすい差だって言われてるんだ」
「え」
どういうこと、と槐に問う間を与えないように黒雪は槐の頬に口付けを落とした。
「えっ、」
なんでという槐の言葉は楽しそうに笑う黒雪の笑い声によってかき消されてしまう。
「なになに、槐。もしかして唇に口付けしてもらいたかった?」
「っ〜〜!」
「あれ、もしかして当たってた?だったら惜しいことしたかも」
「…黒雪、」
「わ、わわ、何?怒った?ごめんってば〜!」
情けない声を上げてぎゅと目を瞑る黒雪に顔を近づけるとそのまま槐は黒雪の動きを封じるように両手に指を絡めた。言動が軽かったりはするが、その実怖がりでそれでいて誰よりも槐のことを求めている寂しがり屋で怖がりな黒雪のことを同じように誰よりも彼のことを知っている槐は笑った。
(今はもう口付けしたとしても怒らないのに…)
臆病な人だと小さく笑いながら槐は少しだけ背伸びをして叱られると思っている黒雪の口に自分の唇を重ねた。
「え」
「…口付けしたって怒りませんよ、もう。私とあなたは両想いなのですから、黒雪」
ぽかんと口を開けていた黒雪は槐に口付けされた事実に気づくと顔を真っ赤に染め上げていく。
「え、え、槐っ…」
「なんですか?」
「…卑怯だって、でも…嬉しい」
ふにゃ、と笑った黒雪の顔に嬉しくなって同じように槐は頬を緩めた。
「だから、もう一回、しよ?」
「ええ、何度も、何度でもーー」
甲賀の里の傍ら、そうやって愛を紡いだ。二人があまりにも幸せそうだから注意すること憚れてしまったのは二人以外の者たちの秘密。
-了-