愛らしい花 「ふふ、黒雪。かわいい」
槐の嬉しそうな言葉に気になって黒雪は振り向くと槐に手渡された手鏡に映る自分を見て顔を顰めた。
「槐……これ、」
「ふふ、かわいい。」
「もう……」
嬉しそうに笑う槐に黒雪は怒れくなってしまう。普段髪を結い上げていた黒雪は解かれそして槐の手によって結い直されていた。それだけならよかったのだが髪の間に小花を刺し結われていて、頭の上にも花冠が乗っかっていた。後姿だけ見れば女と間違えられそうなくらいだった。
「槐が嬉しいならいいけどさあ……ま、でもオレばっかじゃ不公平だから槐も!」
するりと槐の髪を慣れた手つきで解くと黒雪は器用に槐がしたように髪の間に小花を刺していく。
「……く、黒雪、上手ね」
「そうかな?まあ、オレの髪もまあまあ長いし?いじり慣れてはいるかもね」
「…そういうもの?」
「そういうものかな。あとはー…槐のため、かな」
「私?」
「うん。ほら、出来た」
そう言われ槐は手鏡で見ると黒雪とお揃いの髪型に結われ、同じように花冠を被った自分がそこにはいた。
「……」
「槐?どう?」
「…嬉しい、嬉しいわ。黒雪…ふふ、黒雪とお揃いだなんて」
嬉しくなって堪らなくなって笑い声を上げる槐が愛おしくて黒雪も笑みを返す。そしてそのままそっと槐の手を握る。槐はその手を握り返すと同じように見つめ返した。
花畑の上に座り込む二人の姿は仲睦まじく、近くに人がいれば声を掛けるのが憚れてしまうような空気だった。
「ねえ、黒雪。私の為って…?」
「ああ、うん…今日みたいにさ、いつか…槐の髪を結ってあげられる日が来たらいいなって思って密かに…自分の髪で練習してたんだよね」
恥ずかしいけど、と言って頬を赤く染める黒雪が愛おしくなって槐は黒雪に口づけていた。
「!」
「ふふ、ごめんなさい。黒雪、黒雪が可愛くってつい」
「…可愛いのは槐の方だろ」
そう言ってお返しというように黒雪は槐に口づけをする。
「ふふ…」
「はは…」
そうして笑い合うと額を合わせて見つめ合って、笑い合った。
(ああ、幸せだな…)
自分にこんな幸せが訪れるなんて…そう思いながら春の訪れを感じながら幸せをもっと感じるために黒雪は槐と唇を重ねあった。
-了-