掴み取る、君との未来 「槐、甘いもの食べたくない?」
「甘いもの…ですか?ですが、帰ったら夕飯が待っています。」
「それくらい大丈夫だって、それにテストも今日で終わりだろ?少しくらいご褒美が欲しいって思ってもよくないか?な、いいだろ槐」
お願い、と言う黒雪に私はとても弱く仕方なく頷いてしまった。
「やった!」
「ま、待ってください。黒雪!」
「何だよ、まだ何かある?」
「食べるのは構いません。構いませんから…黒雪は私の共犯なんですからもし月下丸達にバレてしまったとしたら…その時は一緒にしかられてくださいね?」
「もちろん。オレがお前を放っておくわけないだろ?地の果てだってお前についていくつもりだよ」
「それは大袈裟ですよ」
「大袈裟じゃないよ。…特に、オレにとってはさ」
ふっと切なげに黒雪が笑う。その表情にざわざわとした言い表せない不安が私の中を渦巻くがそれを隠すように黒雪は私の手を取った。
「ほら行こう!槐」
「黒雪…」
黒雪の冷たい手が私の体温に馴染んで、とても心地が良かった。
***
「美味しい、です」
「そりゃ良かった!前から目をつけてたんだ、いつかお前と食べたいな〜って思って」
「私と?」
「うん、お前以外いないってば。たい焼きは美味いしお前の笑顔が見られるしで幸せだよオレは」
そう言って黒雪はたい焼きの頭を丸齧りする。その容赦なさに思わず私は笑ってしまう
「黒雪、ありがとうございます」
「え、何が?」
「ここに行くのに私を選んでくれて。黒雪と行けて私はすごく嬉しいです」
「お前以外誰を選ぶって言うんだよ」
「だってその…黒雪は、モテるじゃないですか」
そう言った途端加減しつつではあるが黒雪は私の頬をつねった。
「い、いひゃいです、くろゆきっ!」
「お前が馬鹿なこと言うのがいけない」
「馬鹿なことって…」
手が離され黒雪の顔を見上げると怒ったような、それでいて傷ついたような顔を黒雪はしていた。
「オレにはお前しかいないよ、槐」
「え」
「どんな奴に言い寄られたってオレにはお前だけ。…槐にはまだ、伝わらない?」
こつ、とおでこがくっつきじっと黒雪は私の瞳を見つめていた。黒雪の瞳の中の自分と目が合って、ドキドキと心臓が大きく跳ねる。
「オレは、槐のことが好き」
その言葉をずっと待っていたような気がして私は思わず涙をこぼしていた。
「えっ、槐、どうしたの、泣くなんて…っ」
「すきです……っ、」
「え、」
「私も、黒雪のことが、すきですっ…」
「……っ」
溢れ出して止まらないこの想いを言の葉に乗せて吐いていると甘い声で黒雪に名前を呼ばれる。ゆっくりと顔を上げれば蕩けてしまいそうなほど甘く優しい顔をして黒雪は笑った。
「本当?」
「嘘なんて言いません!」
「うん…そうだよね、ねぇ、槐」
「はい」
「ずっと一緒にいよう。約束してくれる?」
「勿論です。だって私たちはーー、」
【私たちは共生共死のえにしで繋がれているのだから】
脳裏に浮かんだ言葉はいつ誰が言って、そして誰に私が言ったのだったか。分からない。ただ分かるのは黒雪の手を取れる今が嬉しくて仕方がないということ。
黒雪に強請られるがまま、唇を寄せ口付けを交わす中私の中の【誰か】が言葉を放つ。
ーー今度は、今度こそは黒雪と共に幸福になって、黒雪を幸せにして。
そんなの、言われなくても分かっていると言ってその謎の声を遠くへと私は追いやって黒雪に笑いかけた。
-了-