共寝 「んっ……ふっ…くろ、ゆき…」
「んー、何?槐」
「何?ではありません!もう朝ですよ!なのにこんな…こんな……」
「こんなに口付けばっかしてたらだめだって?」
「う…」
「それこそオレには関係ないよ。それにお前はここにいるだけでもう甲賀の槐じゃなくてオレだけの槐なんだろ?だったら誰に文句言われようが構わないよ」
「黒雪…」
「それに、お前も本気で嫌がってるようには見えない…違う?」
「!」
「はは、顔真っ赤だ。それ、肯定とし受け取るけどいい?」
こくりと頷き槐の細い腕がオレの首と回される。それが幸せで、引き寄せ合うようにオレは唇を寄せたーー。
「槐、まだ起きてないの?さっさと起きなさいよ…ーー、え、猿之介っ、霞の目と耳を塞ぎなさい!」
「えっ?わ、分かった!」
「黒雪、貴様…」
槐の部屋に入ってきて騒ぐ三人にはぁ、と息を吐く。口づけをしたまま鋭い視線をよこしても怯まないものだから仕方なく身体を離すと槐を起き上がらせる。
「黒雪…?」
「残念だけどここまでみたいだ。あーあ、残念」
「…黒雪、」
「ん?」
くいっとオレの袖を引いたと思えば槐は耳元に唇を寄せた。
「では、続きはまた今夜ということで」
「槐…うん、また今夜」
それだけでたまらなく嬉しくなるのは何故だろうと思っていると月下兄の咳払いによって現実へと引き戻される。
「黒雪……貴様…」
あーあ、これは雷落ちるなーまあ別にいいけど。なんて思っているとオレを庇うように槐はオレの腕にしがみつく。
「槐…?」
「月下丸、叱るなら私を叱って下さい。元はと言えばこの時間までこの部屋に黒雪が私の部屋にいるのは私が誘ったからなのですから」
「なっ…!」
「それに私と黒雪は恋人。特に問題はないように思えますが」
「ですが…っ」
「月下丸が心配してくれているのはわかります。けれど私は大丈夫です、自分で決めてこうしたのですから」
「…っ、」
「あと月下丸。それと皆にも、今日から黒雪は私と共に寝ますから」
「は?」
「えっ」
その言葉に驚いてしまうオレだったが槐に何を驚いてるんですか、的な目で睨まれる。
「いや、だって…」
「黒雪は悪夢を見なくなる、そして一緒にいられる、いいこと尽くしじゃないですか」
「いや、それはそうなんだけどね…?」
と思わずたじろいでしまう。いいことどころか悪いことが一つもないじゃないか。そんなの例えオレでも申し訳なくなってしまう。
「黒雪は嫌でしたか?」
「い、嫌じゃない!むしろ…」
「なら、いいではないですか。」
そう言ってぎゅと槐はオレの手を包み込むように握るからオレは頷いた。すぐそばから呆れた声のようなものが聞こえた。
「ーーと、とにかく!槐、あんたはさっさと準備してくること、黒雪も」
パンパンと両手を叩く伽羅によってそう促されオレは渋々立ち上がる。
「じゃ、後でね槐」
そっと頬に口づけを送ると嬉しそうに槐は笑う。
(あーほんと、可愛いし幸せだ…)
そんなことを思いながら部屋を出る。
「槐様…」
「元気出せよ、月下丸!」
「放って起きなさいよ、猿之介。月下丸は失恋したんだから」
そんな会話を続ける三人を眺めながら小さくほくそ笑む。
(槐はオレのだ。これまでも、これからもーー)
それが執着でも依存でもそれでもそれをオレたちは恋だと呼ぶし今現在幸せなのだからそれでいいと、そう思えた。
-了-