過去から続く約束 「ふ、ふふっ…」
「何笑ってるんだよ、槐」
「ああ、違うんです。思い出していて」
「何を?」
「今朝見た夢のことです。黒雪とこうなるのは必然だったんだな…と思っていて」
「…どういうこと?」
不思議そうに目を丸くさせる黒雪の手を握ってくすくすと槐は笑うと話を続ける。
「前に黒雪が私に花をくれた、という話をしましたよね?」
「…うん」
「あの時とは別に黒雪が私に花をくれたことがあったのです。どこの誰から聞いたのか、結婚して夫婦になると私とずっと一緒にいられる…そう思った黒雪は私が好きだと言った花を摘み取って、小さな花束にして私にくれたのです。『僕と夫婦になって、だからずっと一緒にいよう』って…」
「…そんなこと、あったんだ」
「ええ。皆の前でしたから月下丸や猿之介、伽羅も騒いで大変でした」
そう言ってくすくすと笑う槐をじっと黒雪は見つめる。
「それで?」
「え?」
「槐はなんで答えたの?昔のオレの求婚に」
「…はい、と答えました。当時の私も結婚が意味することをあまりちゃんと捉えきれていなくて…それに、黒雪といるのは楽しかったですから。」
「そっ…か、」
「でも…嬉しかったですよ。昔も、今も、黒雪を放っておけないのも、黒雪のことが好きなのも変わりません」
強い瞳で黒雪を見据える瞳に思わず黒雪はくすぐったそうに笑う。
「はは、そっか…」
「はい。なので…夫婦になる前だから言いますけれど…黒雪、あなたは月下丸を気にしすぎるきらいがありますけれど」
「う…」
「昔も、今も、あんなことがあろうとなかろうと私が手に取ったのは黒雪の手でしたよ。」
「…断言しちゃうんだ」
「はい。だって私は黒雪のことが好きですから」
白無垢姿の槐に笑みを返す黒雪。その目尻にはうっすら涙が浮かんでいてそれをそっと槐は指で掬った。
「…槐、綺麗だよ。だけど、口付けできないのは残念だな…」
「後でたっぷりできるじゃないですか」
「いいの?」
「いいも何も夫婦になるということはそういうことです」
「ふふ、はは、そっか…うん」
そうやって手を繋ぎ笑いあう二人。すると二人は名前を呼ばれそちらへと歩き出す。きっと過去のあの日から二人の運命は定められている、そう信じられれば少しは月下丸に対する嫉妬も薄らぐかもしれない…そう感じた黒雪だった。
-了-