共に眠ろう 「……?」
ぱちりと自然に目を覚ましてしまった槐は隣にいるはずの黒雪の姿がないことで辺りを見回す。月下丸はよく寝ている。しかし黒雪の姿は見えず不安に駆られてしまう。
(ごめんなさい、月下丸…)
忍びらしく足音を消して部屋を抜け出すと黒雪を探し歩き出す。廊下を過ぎ、庭に出たところで月を見上げる黒雪を見つけ槐はほっと胸を撫でおろした。
「黒雪、ここにいたのですか」
「!…槐、」
「…眠れないのですか」
「……まあ、そんなとこ。朝近くになったら戻ろうとは思ってたよ」
そう言ってまた月に視線を向ける黒雪が今にも消えてしまいそうで槐はその手を掴んだ。
「槐…?」
「冷たい…どれほどここにいたのですか?」
「さあ、覚えてないや」
「もう……」
頬を膨らませ怒った様子の槐に困ったように黒雪は笑う。
「…じゃあさ、そんなに心配してくれるのならオレを温めてよ。…な~んて」
そう冗談めかして煙に巻くつもりだった黒雪だったが槐がそのまま受け取り口づけをしてきたことでどうようしてしまう。
「えっ、ちょっ、槐…!?」
「黒雪が言ったんでしょう、温めてくれ――と」
「そうは言ったけど本当にするなんて思ってなくて……」
そう言って珍しく慌てだす黒雪にくすくすと槐は笑った。
「ねえ、黒雪。まだ眠くはありませんか?」
「さあ、どうだろ。別に眠くなんてないし…夢にいい思い出もないからなあ」
「じゃあ、手を繋いでいましょう。そうして一緒に眠りましょう」
「…月下兄に怒られるかもよ?」
「だったら一緒に怒られますよ」
「……槐って、ホント、オレのこと大好きだよねー…」
「はい!」
そう笑顔で言われてしまえば何も言えなくなってしまい黙って槐と共に部屋に戻ることに。布団の中に潜り込むと槐は黒雪の方を向き、黒雪に自分の手を重ねた。
「黒雪、おやすみなさい。」
「うん…槐もおやすみ」
固く固く繋いだ手を離さないようにとゆっくり瞼を閉じていく。槐の温もりがあれば眠ることも怖くないと不思議とそう思えた黒雪だった。
***
翌朝、月下丸の怒号が響く。
「黒雪、貴様ァーーーーー??!!」
「……なに、月下兄」
「何故槐様とそんなに寄り添って、手、手、手、手を繋いで‥‥でで……」
「いいじゃん別にそんなことはさ…」
「そんなことではない!」
と声を大きくしたところで槐はのそりと起き上がる。
「槐様、起こしてしまいいましたか…」
「……黒雪?」
「オレはこっちだよ~槐」
「…よく、眠れましたか?」
「そりゃ~槐のおかげでぐっすり。嫌な夢も見ずに済んだよ」
「ふふ、それはよかったです。おはようございます、黒雪っ」
「わっ、ちょっと槐……オレはすご~~く嬉しいけど、寝ぼけてる?」
寝ぼけたまま黒雪に抱き着く槐に黒雪は困ったように笑う。
「?」
「えっと…月下兄もいるんだけど………」
そして振り向いた先に月下丸がいたことで槐の甲高い悲鳴が響き渡るのだった――。
-了-