形に残るもの 「千鶴ちゃん、町に行ってみない?」
ある日のこと総司さんはそうやって私に提案した。羅刹の毒も薄れ、穏やかな日々を過ごしている時、その提案がすごく嬉しくてちょっぴりおめかしをして総司さんの隣を並んで歩く。山を、森を越え、辿り着いた町の先で総司さんが私を連れてきたのは【写真館】だった。
「写真館?どうして…」
「うーん、まあどうしてって言われると困るんだけど」
「?」
「残したくなったんだ。君と僕の思い出を。君を残してしまうとしても、僕が消えてしまっても君は笑えるように、僕のことを思い返して笑うことができるようにと思って」
「――っ、それは、」
思わず目尻に浮かぶ涙を困ったように総司さんは指で掬う。
「千鶴ちゃんってば泣き虫なんだから」
「総司さんのせいです…!」
「僕のせい、か…それいいね」
そう言って困ったように笑った後総司さんは私の手を引いて中に入っていく。写真館の叔父さんに説明されるがままカメラと呼ばれるものの前に立つ。
「もしかして緊張してる?」
「写真何て、初めてですから…!」
「そうなんだ?」
「総司さんは、初めてじゃないんですか?」
「うん。まあ、初めてでもそうじゃなくても緊張なんてしないよ」
「うう…」
「何?もしかして魂を取られるって話、本気にしてるの?」
「そうじゃない、ですけど…一瞬しかないってのはどうも緊張して…」
そう言っている間に合図の声がかかりぴしりとまるで絡繰り人形のように私の身体は動けなくなり、前を向くことしかできない。笑顔も引きつっていたことが分かったがそれでもどうにかすることはできない。すると横にいた総司さんは小さく息を吐くとそっと私を抱き寄せる。そして、私の頬に総司さんの唇が当たったところで眩しいほどの光が私達を包んだ。
「そっ、総司さ――…」
「これで緊張薄れたでしょ?もう一枚お願いします」
にこりと笑うと写真館の人にそうやってまた写真を取る。私のためにやったことが分かるから怒る気も失せてしまった。それに、次には満面の笑みで映ることができたから、ちょっぴり感謝して現像を待つのだった。
この写真はきっと長いこと私を支えてくれるに違いないのだから。
-了-