君の好きなもの 東地桜。華々しく映画にて女優デビューを果たし、彼女の所属事務所の社長との恋も実らせ順風満帆な彼女、そんな桜の最近ハマっているものといえば――世間的にも人気な【異世界もの】であり特に気に入ったのは【異世界転生した主人公が闇を抱える王子を救う】という物語だった。その王子が、桜の好きなマサトによく似ているのだ。だからそれはもうどハマりしてしまったのだ。そして桜は主演する予定のラジオ番組にて、話す許可を得て意気揚々とそして興奮気味に語るのだった。
「好きなシーンはたくさんあるんですけどヒーローの王子の苦しみや闇を救う主人公のシーンが好きですね!」
「特に王子が初めて主人公への恋心を自覚するところなんかは――」
「初めて王子が主人公に笑顔を見せたり心を砕くシーンなんかはきゅんきゅんしてしまって……」
と、それはもう世間から桜への親近感を増すような出来事があった数日後。桜が久しぶりにマサトの家へと訪れたある日のことだった。
マサトがお茶を淹れている最中、桜はマサトの部屋の隅に置かれた積み上げられた本を見つける。
「あ、これって――」
「あはは…見つかっちゃったな」
「マサトさん!」
恥ずかしそうに頬を掻くマサトはそのまま淹れたてのお茶をテーブルの上へと置くと桜へと向き直った。
「これ、私が前ラジオで話した…」
「うん、そう。キミが最近ハマってるっていう作品、漫画だよ」
ふふ、と笑ってぺらぺらとマサトはページを捲った。
「君が好きだって言う王子が一体どんなキャラクターなのか、どういうところが君の心を引きつけるのか気になって、ついね…」
「あっ、そ、それは……」
「うん?」
急に顔を赤くさせた桜が気になってマサトは顔を覗きこむ。
「私がその王子が好きなのは……マサトさんと似ていたからで、その…」
「つまり?」
「ま、マサトさんにしてほしいこととか重ね合わせていたわけでその…あぅ」
そう言って顔を真っ赤にさせる桜が可愛くて、愛らしくて思わずマサトは抱きしめていた。
「ま、マサトさんっ?!」
「あはは、うん…ごめん。キミがあんまり可愛いことをいうもんだから…つい、ね?」
「つい……じゃないですよ!」
「あはは…でも、嫌じゃないだろう?」
「…はい」
嘘が見抜かれてしまうとしても素直に頷く桜にふっと笑みを浮かべながらもマサトは堪らなくなって軽くキスをした。
-Fin-