一時の逢瀬 「…おや、もう着いてしまいましたか。残念ですね」
花響学園の前に着いた浮葉は残念そうに息を吐いた。
「暫しの2人きりの逢瀬もこれで終わりですね」
グランツとスターライトオーケストラ。ライバル関係である2人は許されないわけではないが簡単に2人の時間が作れないのもまた事実だった。
「浮葉さん!」
握られたままの手を強く握ると空いた手で唯はその手を包んだ。
「確かに名残り惜しいですけど…でもずっと会えないわけじゃないです。それに今回のハロウィンは一緒にいられるわけですし…」
「だから…構わない、と?」
「そ、そうじゃなくて…ええっと…そんなに寂しがる必要はない、っていうか…さ、寂しかったら私を呼んでください!どこへだって駆けつけますから!」
「ふ、ふふ……ふふ、」
「え、ええっ…?」
ぱっと笑ってとんでもないことを口にする唯に思わず浮葉は笑い声を上げていた。
「あなたには敵いませんね。あなたなら…それを成してしまいそうな力がある」
ふ、とまた笑うと浮葉は手袋を外し唯の頬に手を滑らせた。
(わ…、)
あまりにも顔が近く吐息がかかってしまいそうな距離に思わず唯は息を飲む。
「……可愛い人ですね」
「ん、」
気づいた時には唇が触れていた。まだまだ名残惜しいと思う浮葉の気持ちがこれでもかというほど伝わって唯はどうしようもなく泣きたくなる気持ちだった。
「ふふ、顔が真っ赤ですね。……愛らしい人だ」
唇が離れるとそう言って浮葉は笑う。
「そ、それは…!」
「はい、私のせいですよね」
「〜〜〜ッ」
浮葉に恋をしてから、付き合うようになってから案外意地悪なことを知りそれからこんな風に顔を赤くさせられっぱなしの唯だ。
ふと、浮葉はまた身体を近づかせると唯の香りを確認するように鼻を寄せた。
「うん、いいでしょう」
「う、浮葉さん…?」
きょとんと何もわかっていないような顔をする唯にくすりと笑うと浮葉はもう一度手を握り直す。
「何でもありませんよ。ほら、行きましょうか」
そう言われては頷くしかなく真意が分かる前に唯は浮葉と共に学園内へと入っていった。結果的に、浮葉の真意を知るのは唯ではなく他のグランツメンバーなのであった。
-Fin-