火打ち石 「晋作様!」
そろそろレイシフトしようかと言う時に僕の元に雅がやってくる。
「そろそろご出立ですか?」
「まあね」
「マスター様から今日初めて前線に立つとお聞きしました。」
「ああ、そう!そうなんだよ!まあ、僕も?レベルも上がったし強くもなったし君が心配するようなことは起こらないさ」
「でも…古風なやり方ではありますが、見送りたくて。」
そういって雅は懐から火打ち石を取り出しカッカッ、と音を鳴らせた。
「ご武運を。お帰りを心よりお待ちしています」
そう言って深々と雅は頭を下げる。
「ああ、言ってくる」
そう言いながらも懐かしさを感じていた。生前、長く家を空ける僕だったが家を空けるたびにこうして雅は見送りに来てくれたものだ。雅がこうやって火打ち石を鳴らして見送ってくれるのがいつも嬉しく思っていたものだ。凛とした眼差し。あの瞳が僕を射抜いて離さず、そんな瞳が閨では僕との夜では激しさを増す。それが嬉しくて好きだったことをお思い出した。
「雅」
なんだか離れがたくなってしまってするりと手を雅の額に滑らせ真っ白な額を晒す。ちらりと隠れた瞳も顔を出してそれがまた愛おしくなる。雅は驚いたように目を丸くさせていてそんな彼女の綺麗な額にそっと口づけを落とす。
「!?」
途端、雅は顔を真っ赤にさせぱくぱくと口を開閉させた。
「ははっ、じゃ行ってくるよ!」
「行ってらっしゃいませ!」
恥ずかしいだろうにそうやって送ってくれることが嬉しくて顔をにやけさせながらも手を背を向けながら振った。
「高杉さん、高杉さん、」
そうしているとマスターくんに話しかけられる。
「さっきの何です?」
「さっき?」
口づけのことではないだろうと思い火打ち石のことだろうと合点する。
「まあ、縁起物であり邪気を退けるものとも言われている行為でね。昔はよくこうやって妻だったり母親だったりは見送るときによくああしたものさ。君も気になったのだったらあの盾の娘にしてもらうといい。してもらう側はいい気持ちだぞ」
そういえば隣のマスターくんは何やら妄想を繰り広げているらしかった。
「はは…」
思わず笑い声が零れる。それは雅を想ってのことでもあり、我らがマスターの青さに羨ましさを覚えてのことだった。
(帰ったらどうしようかな…)
雅をどう愛してどう可愛がろうか。そんなことを考えながら鼻歌を歌う。脳裏にはさっきの赤く染まった雅の顔がこびりついていた。
-了-