”あざ”だから仕方がない 武市瑞山とその妻、富子が召喚された。藤丸は喜び、生前繋がりのあったものたちはそれはもう喜んだ。
「武市さん!それに富子さんも久しぶりだね」
涼しい顔をして言う龍馬に富子は驚いたように目を丸くさせた。
「まあ、まあ、まあ、あの龍馬さんが立派になって落ち着かれたものですね」
棘のある言い方にお竜はむっとさせるがそれを気にせず言葉を続けた。
「龍馬さん、うちの塀の心地はいかがでしたか?」
途端、龍馬の顔はかぁ~っと真っ赤に染まる。
「なっ……なな……富子さん…何、言いゆうがかえ!そ、そんなん…」
「若気の至り、ですか?」
「え……あ、う……そうではのうて!」
「じゃあ、なんだと言うんです?ああ、ぼかさず言って差し上げましょうか?あなたが――」
「わ~~!!!!!!!!!」
思わず龍馬は大声を出して言葉を遮る。富子の隣にいた武市はくっくと楽しそうに笑うばかり。いじわるな顔をさせる富子も顔を真っ赤にさせる龍馬の様子もいまいち理解できていない藤丸もお竜も首を傾げるばかりだった。
「さすが龍馬さんも好きな子の前では格好つけたいということなんでしょうね」
「な、何が……」
「お竜さん、あなたが知らない龍馬さんのこと…知りたいですか?」
「…知りたい」
「では、いらっしゃいな」
「…ああ。龍馬、あとでな」
あっさり釣られたお竜は富子についていき龍馬はそれを必死に止めようとするがお竜は止まらず富子とどこかへと言ってしまった。
「終わった…終わりじゃ……」
土佐弁になっていることも気にしないまま龍馬が地に伏し落ち込んだ。
「くくっ…龍馬、あれは意外にもあのことを根に持っていてな。恨むなら自分の過去を恨むんだな」
「武市さん……」
泣きべそをかく龍馬をそう言って武市は突き放す。存外妻には甘いのだった、この男は。
「え、えっと…どういうこと?」
「龍馬に対するイメージが崩れてもいいのなら話すのもやぶさかではないが…」
「武市さん!!」
咎めるように言えばまた武市は笑った。状況がつかめない藤丸はまた首を傾げたのだった。
***
「龍馬、帰ったぞ」
「お竜さん…」
お竜が帰ると龍馬は部屋の隅で丸くなっていた。
「…しょんべんをあいつの塀にかけたって本当か?」
「うわぁぁぁぁぁ!!」
大きな声を上げ、龍馬は蹲る。
「何恥ずかしがっているんだ、お竜さんはそんなことで龍馬のこと嫌いになったりしないぞ」
「げに?」
「げに、だ。龍馬」
龍馬を真似するようにしてお竜は言う。
「よかった…げに、げによかった…」
泣いてしまうのではと思うほどの慌てぶりでそれがお竜にとっては珍しいものではあった。
「なあ、なんでしょんべんかけたんだ?」
「なんでやろうなあ…わしにもわからん」
そう言って龍馬は頭を掻いた。そんな龍馬をお竜はそっと抱きしめる。
「お竜さんはお前がどんなことをしてたって、どんなに泣き虫だった幻滅しないし嫌いになんてならないぞ」
「やけんど…わしは、隠いちょきたかったんや」
「困った龍馬だな」
ふっとお竜は笑って龍馬の頭は撫でる。龍馬はこんな過去の自分のだめなところを見られてなお一緒にいてくれるなんて…と痛く感動し、お竜に深く感謝をし他のこともバラされないようにしよう…と、そう…決意するのだった。
-了-