例え先生が相手だとしても 吉田松陰が召喚に応じ、カルデアにやってきた。それは同じ時代を生きたものたちにとっては喜びを表すもので特に松陰を人生の師と仰いだ高杉晋作はとてつもなく喜んだ。
「松陰先生!僕は先生の教えにならい、すばらしい妻を迎えました!彼女がその妻です」
そう紹介され雅子は深々とお辞儀をした。
「晋作の妻にしては出来すぎた娘ですね」
「でしょうでしょう!」
自分のことのように喜び、高杉は自慢げに胸を張った。
「ありがとうございます。松陰様のことは夫からよく話を聞いていました」
「ほう?」
「べ、別に変なことは言ってないですよ!?」
「ええ、変なことはなにも。晋作様が義父様の反対を押し切り、嘘を吐いてまで通う価値のあった塾だったことや、今の自分があるのは松陰様のおかげであること、あなたが妻をとれと言うから私はくじを引き彼を引き当てたのだと思うと…私個人としても感謝しかありません」
そう言って雅子はまた深々と頭を下げた。
「夫にそのようなことを言って下さり…私と彼を巡り合わせてくださりありがとうございます」
「頭をお上げなさい、雅子さん」
言われ雅子は頭を上げた。
「確かに間接的にはそうなったかもしれない…けれど晋作とあなたが巡り合えたのはあなたの運命が晋作に繋がっていた…ただそれだけのことでしょう」
「…ありがとうございます」
ふ、と雅子は笑みを浮かべた。さすが萩城下一の美女と言われるだけあるとらしくもなく惚けてしまいそうになる松陰だったがそれを遮ったのは高杉だった。松陰の視界を遮るように雅子の前に立ちはだかる高杉は松陰が見たことのないような、嫉妬に狂う男の顔をしていた。
(これはこれは…)
「晋作様?」
「松蔭先生は確かに男の僕から見てもいい男だ…でも、でもっ!雅はダメですから!」
「はあ?」
威嚇するようにいう高杉におかしくなり、思わず松陰は声をあげて笑った。雅子は怪訝な顔をしている。
「あなたは何を言っているのですか」
「だ、だってなあ!君!」
駄々を捏ねる子供のようなことを言う高杉に雅子はため息を吐くとぺちりと小さく高杉の片頬を叩いた。
「いた」
「私のことが信じられませんか?」
「信じている!信じているとも!ただのこの場合僕が危惧しているのは…」
「それこそあり得ません。私のような女…」
「あり得なくはないだろう!?というかあり得てしまうから僕はこんなに不安なんだが!?」
きゃんきゃんと喚く高杉にまたため息を吐くと雅子は高杉の片頬を摘んだ。
「いひゃい」
「痛くしているのです」
そう言って雅子は小さく笑った。
「私が好きなのも愛しているのもあなただけですよ。…それだけでは信じてくれませんか?」
上目遣いの雅子の瞳が高杉を射抜き思わず高杉は視線を逸らした。その顔は耳まで真っ赤に染まっていて…
「……それは君…ずるいだろう…いや、無意識なのがタチ悪いんだが…」
などとぼそぼそ呟いていたが雅子にその声は届くことはない。
「晋作様?」
「いや、なんでもない」
そう言うと高杉は後ろから雅子を抱きしめてきっと松蔭を睨む。それにおかしそうに松蔭は笑う。
「久坂君にも君は執着を示していましたが、そうですか…やはり君は自身の妻にも【そう】なのですね」
「先生?」
「いえ、大事にすることですね。晋作」
「し、しています!」
「そうですか」
そう言って眼鏡を上げかけると高杉と雅の顔を見比べ笑った。きっとここに彼女がいる限り高杉は堕ちることはないのだろうと安堵と確信を得ながらー……、
-了-