それはどっちのエゴ? 「今度、キスシーンの撮影をすることになったんだ」
トモセくんはそう、まるで業務報告をする時のテンションのように言った。
「そ、そう…なんだ…?」
逆に私は例えトモセくんが今をときめく人気俳優だとしても幼馴染で恋人だからこそ胸の内にもやもやとした黒いものが広がるのを感じる。そうしているとにやにやとトモセくんが見てくるのを見て、可愛げがないと分かりつつもつい…意固地になってしまった。
「頑張ってね、私…応援してるから!どんなドラマなのか楽しみだなぁ」
トモセくんが残念そうな顔をしていたのは気づいていた。けど…素直になるのには気が引けてしまって…いつものように私は引っ込みが付かなくなってしまったのだった。
***
「本当、私ってば可愛くない!」
突っ伏す私に獲端くんの長いため息が聞こえる。
「自分って分かってるなら改善しろよ、馬鹿なのか?つーか、俺の貴重な時間を使っておいて惚気ってなんだよお前…」
「はは、確かに〜」
獲端くんの横の凝部くんもめんどくさそうに笑う。
「だ、だって私の話を聞いてくれる人なんて二人以外いなくて!」
「人選ミスだろ。つーか、明瀬とか太宰とかいるだろ」
「二人とも用事があるって…」
「「あー…」」
何故か二人は納得したように頷くが私には意味がよく分からなかった。
「とにかく、相談されても答えは【素直になれ】以外の何もないだろ。つーか、お前も鈍いが萬城は更に鈍いだろ」
「…た、確かに」
私がトモセくんのこと好きだったことにも気づいてなかったくらいだし…と思い至る。
「だから!結論、素直になりすぎなことはない!真っ直ぐぶつかれ!以上!」
「出ました!ケイちゃんの名言!」
「名言じゃねぇ!…分かったらさっさと萬城のとこに行け」
しっしとあしらわれるが私はそれに素直に頷く。
「ありがとう、二人とも!今度何かご馳走するから!」
そう言って走っていく。
「いらねえよ、ばーか」
そんな獲端くんの言葉はもう私には聞こえていなかった。
***
「…ヒヨリに嫌われたかもしれない…ヤキモチ妬いてほしいとか俺のエゴでしかなかったんだ…」
一方その頃、トモセとは言うとーー。
「し、死んでる…」
「お、おい…大丈夫か?萬城」
「これが大丈夫に見えるか…?」
涙の跡がうっすらと見えるトモセの顔にキョウヤとメイは苦笑いした。ヒヨリと同じようにトモセもまたヒヨリとのことを相談しており、お節介な二人はあの二人とは違い親身に相談に乗ってくれていた。
「別にヤキモチ妬いて欲しいってのは普通のことだと思うけどな?なぁ?」
「……まぁ、そう…だな。好きなやつがいたら、妬いて欲しくなるのも当然だ。萬城は想っていた時間が瀬名より多いんだからそう思うのも仕方ないだろう」
「そうそう!」
「…そう、なのか?烏滸がましかったんじゃ…」
「ないない!だって、自分ばっかり好きなんじゃないかって不安だったんだろ?」
こくりと頷くトモセに困ったように二人は笑う。
「だったら、変でも烏滸がましくもねーよ」
「ああ」
「そうか…でも、そうだとしたらどうしたら…?」
「うぅ〜ん、そうだなぁ…」
とキョウヤが考えだした時だった。
「トモセくん!!」
「ひ、ヒヨリ!?」
走っていたヒヨリは汗だくで勢いのままトモセの手を掴む。トモセもヒヨリが来たことに驚き思わず公園のベンチから立ち上がっていた。
「はぁっ…はぁ、はぁ…っ、」
「だ、大丈夫か?水飲むか?今から俺が買って来ーー、」
「トモセくんはここにいて!」
「あ、あぁ…?」
息を整えた後、きっとヒヨリはトモセを睨むように見つめる。
「トモセくん、わたし……私、妬いたよ」
「…………え?」
一瞬何のことを言われたのか分からなかったトモセは疑問を返す。
「トモセくんが、私以外の人と…仕事とはいえキスしちゃうんだって…でもそんなこと言うのは…恥ずかしくて、でもトモセくんには言わないと分からないぞって怒られちゃった」
あはは、とヒヨリは笑いトモセのことを見つめる。
「トモセくんは気づいてないのかもしれないけど…私、いつもヤキモチ妬いてるんだよ?」
「…本当に?」
「ほら、やっぱり気づいてない!」
「いやだって…ヒヨリがそんなふうに想ってくれてるとは…俺ばっかりなんじゃないかと思ってたし…、」
「そんなことない!私も…私なりに…トモセくんのこと大好きだもん!」
ヒヨリの宣言にふにゃりとトモセは表情を緩める。
「ーーよかった。それだけで、救われたみたいに、嬉しい」
「〜〜〜っ、」
そんな風に笑うなんて、可愛すぎてずるい!とヒヨリは内心思いつつトモセの手を握った。
「な、仲直りね」
「ああ」
そしてトモセはキョウヤとメイを放って歩いて行きその背中を見ながらやれやれと言ったように二人はため息を吐いた。
「相変わらず世話をかけさせる二人だな」
「まあな」
長く伸びた二人の影が未来の幸せを象徴しているようでキョウヤとメイはおかしくなって大きな声を上げて笑うのだった。
-Fin-