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    #ミラプトweekly
    お題:雨宿り
    雨宿りするミラプトと一般通過パス
    S9後くらいのつもり

    #ミラプト

    情けは人の為ならず雨は嫌いだ。セットした髪型は崩れるし、お気に入りの靴も濡れちまう。バッチリタイプの女性がいても傘が邪魔で声をかけづらい。まあ残念ながら俺は今、バケツをひっくり返したような土砂降りを前に傘を持たず立ち往生していて、近くにいるのはバッチリタイプどころかハナの差で殺人ロボットよりマシなおっさんだけなのだが。
    折角チャンピョンを取ったのにインタビューが終わってさあ帰ろうと思ったらこれだ。ざあざあと甲板を叩く雨足は強くなるばかりで一向に止む気配がない。ソラスの雨は希な代わりに降り出すと長いんだ。砂漠気候のこの星にとっては恵みの雨でも、俺にとっては勝利に水を差されたような、そんな気分になっちまう。シャンパンシャワーならともかく、砂混じりの雨を浴びて帰るのはごめんだ。
    少し離れたところにいる今日のチームメンバーのクリプトも、同じようなことを考えているのだろうか。緩く腕を組んで壁にもたれかり、長めの右前髪の隙間から雨に煙る外の景色を眺めている。気怠さの中に少しだけ物憂げな色を滲ませたその目が気になって───いや、今のはナシだ。ただ暇だったから、暇で暇でしょうがなかったから、つい声をかけちまった。それだけだぞ?他意なんてない。俺様の気の利いた話でヤツの気も少しは晴れればいいとか、あったとしてもその程度だ。
    「あ〜、クリプト。お前も傘持ってないのか?」
    「ああ。」
    「そうか、そうだよな…いや、お前いつも準備準備って口酸っぱく言ってるからさ、もしかして誰かを待ってるだけで、実は傘持ってんじゃないかと思って。」
    「残念ながら誰も待っていないし傘も持っていない。もし持っていたとしてもお前には貸さない。」
    「なんでだよ!」
    「誰かさんがインタビューで長々と話さなければ雨が降る前に帰れたんだ。そう思うと虫の居所が悪くてね。」
    ぐ、と言葉が詰まる。確かに今日のインタビューは…そうだな、少し喋りすぎたかも知れない。でも久々のチャンピョンで、しかも初動ファイトで運悪く武器を拾えなかった味方のパスファインダーを失って、トリオのところをほぼデュオで勝ち取った勝利だったんだ。クリプトがしっかり安置と敵の動きを読み、俺がデコイでヨーヨー…じゃなくて陽動?とにかく騙して人数不利をひっくり返す。百二十パーセントの力を出して成し遂げた大番狂わせに、いつも以上に口が回っちまったのも仕方ないことだろう。クリプトだっていつもよりちょっとだけ饒舌になってたよな?それなりに長く付き合ってんだ、わかるぜ。パスファインダーには悪いが、今日のゲームは最高だった!
    「って、おい!正気か?」
    折角俺がウィングマンで敵のレイスをぶち抜いて最後のキルを決めた瞬間を思い出していたっていうのに。あろうことかクリプトは、いつのまにかパーカーのフードを被り、ポケットに手を入れ、少し身を屈めて雨の中に突っ込もうとしてるじゃないか。
    「いつまでもこうしていたって仕方ないだろう。俺は行く。お前は人を呼ぶなりタクシーを呼ぶなりすればいい。」
    「お前もそうしろよ!」
    「俺は平気だ。」
    言うや否やまた外に飛び出そうとするクリプトの手首を慌てて掴む。コイツは常に冷静で、ゲームでもチームの参謀役になることが多いんだが、たまにこういう無茶をしようとするところがあるからわからない。しかもその無茶の仕方がまた…なんというか、自分を粗末にするような感じで、俺は時々いたたまれない気持ちになる。
    手の中の冷たい金属と、少しだけ温度を持つ肌の感触。俺より細く、すぐ下に骨を感じるそこを無意識に擦ると、目の前の男の顔が苦々しく歪む。なんて顔するんだよ。引き止める手を振り払わんと暴れる腕をいなしつつ、俺は小さい子供に言い含めるように努めて優しく語りかける。
    「こんな雨の中に突っ込んだら服どころかパンツまでびしょ濡れになっちまうぞ。いいか、パンツまでだ。ソラスの夜は冷えるぞ?全身冷え冷えになって、不健康なおっさんは風邪を引く。風邪を引くとどうなる?ゲームは休まなくちゃいけないし、仕事だって溜まる。最悪だ!」
    しかもこのガンコでヘンクツなおっさんのことだから、本当に風邪を引いても誰にも頼らずひとりで耐えるに違いない。ドロップシップの彼のスペースのように暗くて狭い部屋で、ロクに飯も食わず、薬だけ飲んで───そこまで想像して身震いした。ぜーんぶ俺の勝手な妄想だって?そんなことはわかってる。それでも絶対にこの手を離してなるものかと、そんな使命感が胸に迫ってきてじりじりと身を焦がすんだ。
    クリプトは何も言わない。俺の言葉に暴れるのをやめて、目を伏せて何か考えているようだった。その姿に雨に打たれた野良猫のような、そんな頼りなさを感じてしまって、俺の中の何かがざわめきだす。胸の真ん中がゆるやかに温度を上げて、掴んだままの手首からじわりと俺の体温がクリプトに移っていく。ほんのりあたたかくなったそこをまた擦れば、目の前の睫毛がふるりと揺れた。なあ、こっちを見てくれよ。お前は自分のことを粗末にしがちだけど、もっと大事にすべきなんだ。
    デバイスに覆われた頬に触れようと手を伸ばしたその時だった。
    「あっ、いたいた!おーい!」
    突然響いた気の抜けた声。誰もいないと思っていたドロップシップの中からガシャガシャと音を立ててやってきたその主は、もう一人の?一体の?まあどっちでもいい、今日のチームメンバーのパスファインダーだった。
    俺たちとは別でインタビューを受けていたと語りながらやってきた闖入者に、俺とクリプトはサッとお互い距離を空けて、何事もなかったかのように振る舞う。なんとなく気恥ずかしい雰囲気は、二人の間に差し出された青色がパッと開いて吹き飛ばしていった。
    「これ…俺がお前にやった傘じゃないか!」
    「そうだよ!」
    パスファインダーが手にしている青い傘は、その昔、俺が彼にプレゼントしてやったものだ。雨の日に人間が傘を差すのを見て、カラフルでキレイだね!と赤いモノアイをキラキラさせて言うもんだから、ロボットが傘を差しちゃダメなんて決まりはないだろ?と彼に彼のボディーカラーとお揃いの、真っ青な傘を贈ったんだ。それを受け取った時と同じ笑顔のマークを胸のモニターに映しながら、パスファインダーは続ける。
    「今日は君に使ってほしいんだ。僕は濡れても平気だけど、君は濡れると元気がなくなっちゃうからね。」
    そのまま俺の手に傘の柄を握らせて、軽い金属音を立てながら数歩下がる。頭の上にクエスチョンマークを浮かべる俺と、俺の上に広がる青をじっくりと見て、青いロボットはいつものように親指を立てた。うん、似合ってる!だと。
    「そうだ、クリプトにはこれを渡してほしいって頼まれたんだ。」
    パスファインダーはクリプトに向き直ると、モニター部分をパカリと開けて、小物入れ代わりにしている中の空間から一本の黒い折り畳み傘を取り出した。シンプルで飾り気のないそれは、名前も書いてなければアンブレラマーカーも付いていない。異様に几帳面に畳まれていて、もしかすると新品なのかもしれない。
    「これは…誰が?」
    「ごめん、それは秘密なんだ。ドブネズミには言うなって言われちゃったから。───クリプトってネズミだったの?」
    クリプトは一瞬驚いたような顔をしたけれど、すぐにいつもの仏頂面に戻っちまった。でもこのミラージュ様は見逃さなかったぜ。一瞬大きく見開かれたその目の中に、確かな喜びが滲んでいたことを。そんなことを俺が思っているだなんて知る由もないクリプトは、パスファインダーから受け取った折り畳み傘をしげしげと眺めている。
    「じゃあ僕は行くね!」
    役目を終えた青いロボットは、グラップルで颯爽と雨の中に飛び去って行く。あっという間に小さくなるその後ろ姿に手を振っていると、ずいと鼻の先に黒い傘が突きつけられる。
    「毒ガスが噴き出すかもしれない。お前が開いてくれ。」
    「ハァ?!」
    なんで俺が!と思わず叫べば、隣の男はフンと鼻を鳴らす。
    「お前のせいでこんな怪しげな傘を使うハメになったんだ。お前が開いて安全を確認するのが筋だろう。」
    「お前に届いた傘だろ!自分で確かめろよ!」
    言い合いながらぐいぐいと傘を押し付け合ううちに留め具が外れてしまったようで。バッと音を立てて黒い傘が開いて、俺とクリプトはビクリと仲良く肩を跳ねさせちまった。ふわりと甲板に落ちた傘からは毒ガスが噴き出すわけでもなければガスグレネードが転がり出てくるわけでもなく。なんの変哲もないただの折り畳み傘を前に、俺とクリプトは自然と顔を見合わせて笑っちまった。足元に転がるそれを拾い上げてクリプトに手渡せば、やっと素直に受け取ってくれる気になったらしい。まったく最初からそうしろよ、この被害妄想の変人め。
    「傘も手に入ったことだし、帰るか。」
    「そうだな…いや、今日はチャンピョンを取って気分がいい。どこか適当な店で一杯やってから帰ることにするよ。」
    「そいつは奇遇だな!俺も今日はチャンピョンを取って気分がいいんだ。いい店を知ってるから案内してやるぜ。パラダイスラウンジって言うんだが、オーナーが最高にイケメンで───」
    雨の中、二人で連れ立って歩き出す。青い傘と黒い傘が並んで、ソラスの街に消えていく。
    やっぱり雨は嫌いだ。セットした髪型は崩れるし、お気に入りの靴も濡れちまう。バッチリタイプの女性がいても傘が邪魔で声をかけづらい。でも今日の雨は、好きになれそうな気がした。
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    MOURNING「ただいま。」「気付いているか?」「俺は騙されたりしない。」の指定台詞3つでミラプト企画話
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