7番 バスタイム八左ヱ門は三郎を意識したことなんてない。たぶんちょっと仲がいい友達くらいの距離感だと思ってる。大学に入ってから知り合って、専攻は違うもののなんだかんだで仲良くなって、出かけたりとか20歳を過ぎて飲みにいくようになったりとか当たり前で、でも三郎が八左ヱ門が住むアパートに来たことはなくて偶然が重なって三郎が八左ヱ門の家に来て、八左ヱ門はちょっと緊張している。
電車が遅延して少し遠くの駅から真夏の真昼に歩いて帰ってくることになったから汗だくで、八左ヱ門の家に着くなり遠慮なくシャワーを借りる三郎。なんせこの後、雷蔵と会う予定があるので。でもどうせ焼肉屋なんだから汗を落とす必要なんてあるか?って八左ヱ門は思うけど三郎が真顔で、ベストな状態で雷蔵に会いたいだろ、っていうからすきにしてくれってシャワーを貸す。ちなみに三郎は雷蔵と住んでるし、雷蔵とは今朝もあっている。意味がわからない。でもまあ三郎だし、で納得してしまう。
2DKの部屋だからどこにいてもシャワーの音がよく聞こえる。三郎がシャワーを浴びている。それだけなのになぜか八左ヱ門の脳裏に想像したシャワー中の三郎の姿が浮かんできて。戸惑う。それをごまかすように、俺も浴びるから早めに出ろよ、とお風呂場のなかに声をかけると弾んだ声で返事がある。風呂場に響いてなんだか艶を帯びたような声にこえて居た堪れない。
シャワー室のドアが開いて、八左ヱ門が何気なしにそちらを振り向けば水滴を滴らせて全裸のままの三郎が堂々と立っていた。え、てなる八左ヱ門。時間が止まる。タオルを借りるのを忘れていたといって手を差し出す三郎。タオルを手に取る八左ヱ門。いろいろキャパオーバーになる八左ヱ門。
わ~!!!って言いながら三郎の髪をタオルでわしゃわしゃする八左ヱ門。びっくりして目を丸くしている三郎。されるがままの三郎。なんだったらこのまま体も拭いてくれといわんばかりに背中を向ける三郎。三郎の艶やかな丸い肩を雫が転がっていく。
わ~!!!って言いながら三郎にバスタオルを投げつける八左ヱ門。もう耐え切れない。別室に逃げる。のんびりと水滴を拭った三郎が腰にタオルを巻いて風呂場から出てくる。三郎は汗を流してさっぱりとした顔をしている。八左ヱ門は三郎を直視できない。いままで一緒に温泉にいったことだってあるのに!?
鉢「ぱんつも貸して。汗まみれのなんて履きたくない。」
竹「貸せるぱんつなんてない!」
鉢「洗ってあればかまわないぞ?」
竹「かまうだろ!三郎は雷蔵と貸し借り慣れてるだろうけど、」
鉢「雷蔵戸だってしないよ。八左ヱ門だから貸してって言ってる。」
戸惑う八左ヱ門に対して、三郎はにんまりと笑うとふうんてなにか察したような顔をする。止めて欲しい、かわいいから。下心だよ、って囁いてくる三郎から逃げるために八左ヱ門に残された手段は風呂場にこもることだけ。