ふよ、と視界に入り込んだ青白い光を追いかけて振り返る。そこに痕跡や発信源と思しきなにかがあれば事は簡単だったのだが、それらしきものは見当たらなかった。周囲を見渡してみたが、飾り付けられた電飾は暖かな色合いばかりでどうにも噛み合わない。錯覚だろうかと目元をこすれば、隣を歩いていた人物が心配と疑問をないまぜした声で問うてきた。
「なに、どうかした?」
「いや……見間違いだとは思うんだけど」
今しがた目にしたばかりの光についてざっくり話せば、彼もまた同じように辺りを見回した。成果はなかったようで、小首をかしげながらも口を開く。
「サブスタンスかな。街中の計測器に反応はないみたいだけど」
スマホを取り出したかと思えば淡々と指先を動かして何かし始めた。内容は分からないが、目まぐるしく振れる瞳が見て取れる。メンターとメンティーでは情報伝達の優位もあるため、念のため自分の端末にも目を通す。オフとはいえ緊急事態ともなれば連絡のひとつくらい入ってくる。とはいえ端末が静まり返っている以上、今のところ気を張る必要はなさそうだ。
ポケットにしまい、今度は少しだけ意識して辺りの音を探ってみる。いつもより密度の高い喧騒に溶ける子どもの高らかな笑い声、店先から響くおどろおどろしいメロディー、そこから危ぶまれるものは感じられない。目の前に意識を戻せば、画面から目を離したフェイスがほっとしたような息を吐いて顔を上げるところだった。
「……うん、騒ぎが起きている様子もないみたい」
「そっか。ごめんな、変に気を使わせちゃって」
「別に。おんなじ仕事して、おんなじこと気にしてるだけでしょ」
だから今後もひとりで黙り込むことはしないでほしい、と小さく続けられた言葉に目を瞠る。驚きを隠そうともしないこちらの挙動に、なに、と少しだけ拗ねたような声を上げるところが堪らない。頼もしく感じられて嬉しかったと素直に伝えれば、それはそれでまごついて見せるところが飽きないなぁと思う。
「なんだったんだろうな。幽霊、っていうのはベタだけど」
「そうだなぁ、ウィルオウィスプ……なんて説はどう?」
「なんだっけ、それ」
「天国にも地獄にもいけなくなった魂だよ」
ジャックオランタンの方が耳馴染みがいいかも、と口遊みながらフェイスは店先に並ぶカボチャの飾りをつつく。すこし滑稽な笑い顔でオレンジ色の光を発するそれは、なにも考えなければ愛らしいものに思えたのだろう。虚のなかに火を宿して、見せかけの魂を装っている。宗教には詳しくない、縋ったこともあまりない……だが、憐れな見世物であることはきっと罰のひとつなんだろう。
ふと通りすがった親子連れの腕の中にいた赤ちゃんが、それを目にした途端にぐずり始めた。いやいやと怖いものを見るように、飾り付けから顔を背けようとしている。
「アハ、ランタンの顔って結構怖いからびっくりしちゃったのかな」
「……フェイスも小さい頃に怖がったりしたのか?」
「ないけど。……え、ブラッドがなんか言ったとかじゃないよね」
「あはは! ちがうちがう、あいつはそういうこと吹聴したりしないよ」
ふたたび視界をかすめる光に気付きはしたけれど、口にはしなかった。目の前であったにもかかわらず、フェイスが反応を示さなかったからだ。幻覚のたぐいであればそれはそれ、ノヴァさんに検査をお願いするなり休息を多めに取るなり考えようはある。ただもしも、人を選んでその姿を見せている存在だったなら。
誘われているのではと思った。あるいは、この身が果てたときに訪れる結果のようにも。天国にも地獄にもいけない、許されない、さまよってさまよって禊ぎの日さえ訪れないまま。
「ハァ……無駄に疲れちゃった。もういいよ、早く移動しよう」
「うん、ごめんな」
答えが見つからないときは人に尋ねるのが一番だ。こと賢くて機転のきく友人たちに囲まれてきたからこそ、手段として選ぶことをためらいはしない。無いのだけど……でも、人並みの情緒は備えている。だから黙ってしまった、これも君にとっては悪いことになってしまうのかな。
(自分が死んだとき、どちらに召し上げられると思う? もしくは──)