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    kinari_random

    すべてにおいてらくがきばかり

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    kinari_random

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    アシュビリワンドロ
    第2回お題『差』

    彼曰く”庶民”でも背伸びすれば入れる程度の店構えに、多少の日々の娯楽を削れば出せなくもない金額。そんな場所で、さらにリーズナブルであろうランチという体裁をとった食事が目の前に運ばれてくる。
    中央に鎮座する立派な肉と彩り鮮やかな野菜、なにが使われてるかも分からないけれど良い香りのするスープ。手が出ないことはないけれど、普段のランチがゆうに10回は食べられる程度のそれ。向かいで勝手に注文までを済ませた相手は、まったく躊躇うことなくカトラリーを手にとって食事を始めた。それを数秒眺めて、その間にも漂う香りにも負けて、同じように皿へと向き合う。
    「こうやって何か貰うとき、手放すことを怖がらない人なんだな〜って実感するんだよネ」
    「欲しいモンならまた手に入れりゃいい話だろうが」
    「ワオ! とんでもない発言でも様になっちゃうところがさっすが〜」
    差が埋まることをためらいもしない言動に、本当にいやになるほどノブレスオブリージュってやつを感じる。圧のある直々のトレーニングだって隙あらば設けようとするし、潰されそうだという感覚も分からないでもない。でも全部、彼が求める理想に引っ張り上げるための手段で……やり方はどうかと思う点は挙げればきりがないんだけど。可能性を信じている人なんだと思った、なんて口にしたら顔を顰められそうだから黙っておく。
    ボクちんのこと叩いたら伸びると思っている? 折れないと思っているの? 期待といえば聞こえはいいが、見合わないなと感じた瞬間に心が揺らがないでもない。それほどの熱量を傾ける価値があるのかな、部下の手落ちは上に立つ者の責任だと思うタイプだったりするのかな。
    「経験って利益だから、その辺パイセンってば惜しげもなく……と思ったりしてネ」
    「トレースして上書きできるモンでもねぇ、テメェの資質次第だろ」
    「そのおかげで後輩があなたの頭上を飛び越えてしまったとしても?」
    ヒーローではない一個人のアッシュ・オルブライトに対して思うところはある。手放しに褒めそやせる人格ではないし、話題には出さないが垣間見える学生時代の行いもまあ、なんというか。悪い人ではない、という曖昧な評価で留めておくしかないのが実情だ。
    それを踏まえた上で、こうしてメンターという立場にある彼のことは認めざるを得ないと感じるのだ。少々手荒なきらいはあるが、経験から得たであろう知識を与えることに躊躇がない。力を欠いている現実に対してなあなあな態度は許さないし、語調はともかく指導内容は適切だ。ジェイだってアッシュのやり方すべてに苦言を呈しているわけじゃない。そして何より、スーパーヒーローとして名高い相手に対しても準じない自我を持っている。
    「ありえねえ話だ」
    「仮に、ダヨ。たらればくらい嗜んでよパイセンってば」
    「はあ。……それで俺の価値のどこが揺らぐ? なにも変わりゃしねぇ」
    「アッシュパイセンの場合はそうカモ!」
    こと、”100万の夢が叶う街”ニューミリオンにおいて、出る杭は打たれるなんて風潮は一笑に付されてしまうだろう。けれど……ほんの少し規範から逸れたらどうにもならない道行きは、たしかに存在する。なにもかもがプラスにある人、というよりは本人がそうであると信じている。ヒーローの職務においても家柄においても、手放さないよう身の丈にあった暮らしをしている、結局それだけのことなのだ。
    「じゃあもうひとつプリーズアンサー! マイナスに足を引っ張られたらどうする?」
    「しがみつくようならこっち側に引きずりゃいい、簡単な話だ」
    「あははっ! 夢のような話だネ」
    怪我の対処法ひとつとっても、経験の差は歴然だった。無形の財産ほど手のつけられないものはない、それも多分知っているのだ。有り余るほどの財を知るからこそ、それが効果を見せない対象があることも知っている。だからすべてが叶うような夢を見ている俺のこと、かわいそうに思うんでしょう?
    生まれ持った体躯はともかく、肉の足らない体も足らない信念も、望めば改善の余地はあるのだろう。だからこそ力が全てだと謳う彼は、それに従って周りにも「力」を与えることを惜しまない。己の正解を追うことに他者の目は関係ないと断言できるのは、あなたの立場ゆえに許される思考だとしても。谷底からであっても手を伸ばしていいと、言われた気がしたから。
    「……今からでもしがみついていい?」
    「新人はそうすんのが当然だろ、ナメてんのか。飯の後もサボんなよクソガキ」
    「は〜い、泣き言こぼしながら頑張りマース♪」
    「チッ……一言余計なんだよ」
    お粗末とは評されない程度の手つきで皿に残るステーキを切り、口に運ぶ。噛みしめたそれは自分にとっては柔らかく質のよいものだが、向かいの彼にはそうでもないはずだ。
    高いご飯は食べ慣れないと胃がびっくりするよね、とこぼしたことを覚えていたのか真相はともかく。このランチが彼の趣向だけではなく、俺との差を埋めようと苦心した落とし所にあれば嬉しいなと……これも夢のひとつと言えるだろうか。
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    Replies from the creator

    kinari_random

    DONEヌヴィリオ。カプと言いつつ+も同然です。
    キャラストや伝説任務もろもろのネタバレを含みます。
    「濾過の果て」俺が望む”正解”は存在しないかもしれない、そんな無知ゆえの諦念を一瞬で奪い去っていった男がいた。己を……いや、水の国におけるすべての罪を裁定する者。存在だけは耳にしていたその象徴を目に映したのは、あの場所に立たされたときが最初だった。証言台に立つには不釣り合いな背格好に対して、なんとも形容しづらい悲嘆と畏怖がさざなみのように注がれたのを覚えている。ゆえに……拙い物語の主役として祀りあげられてしまったのだから、役割をまっとうするしかないと考えたのは本音だ。
    それはカーテンコールまでここに立ち続けてやろう、という意味でしかなかったが。残念なことに、歌劇には一流の作品もあれば三流以下の作品だって存在する。愉快さも滑稽さも足りない、ただ事実だけを読み上げる朗読劇を果たして観客たちがどう感じたか……それはもちろん、推して知るべし。テコ入れをしようとした彼らの雑音を薙ぎ払ったのは、澄み切ったひとつの声だ。最高審判官と諭示機が答え合わせをして、そうして下された結論によって裁判はつつがなく終幕を迎えた。惜しみない拍手を送ってやりたかったよ、だって彼が、あんまりにも考え込んでいる様子だったから。たとえば長い一曲のなか、たった一音の素晴らしい演奏をした者に送られるべき称賛のように。
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    kinari_random

    DONEフェイディノ未満、一瞬だけ嘔吐ぽい要素。ほぼ医務室で話してるだけ。
    ディノの耳の良さ(仮定)と西ルーキーの音系攻撃って相性悪くない?という発想から練ったお話。
    【倣いごと】



    身を投げ打つ予定なんてものは己の中に存在していない。つい数ヶ月前にやった行動はなんだ、と過去が囁くのを一笑に付しながら思う。あのときはまだ生きていくことを想像していなかったせいだ、と簡潔な答えを添えてしまえばすべて解決する。
    だからみんなと共に歩んでいくと約束した今になって、そんな手段を選ぶことはないと。そんな悪行は棄て置いたつもりで、けれど……と思考がつんのめる。頭のどこかで、それをきちんと理解していないような酩酊が泳ぐ。いざとなれば許されるのではないかという甘えが、果たしてつま先ほどにも残ってはいなかったかと。
    「──ディノ!前に出んな!」
    友人が珍しくも鋭く叫んだ言葉に、こういった場面において本当に的確な指示が出来るやつだ、と感心した。それに反応が遅れてしまったのは、ひとえにこちらの不足でしかない。距離感が速度か、あるいは能力自体の把握か。自身のそれもルーキーたちのそれも知っているつもりだった。そんな慢心から生まれた状況が、決して致命的ではないというのも瞬時に察せてしまった。それもまた油断に他ならないと、もう一人の友人なら口を挟んでくるかもしれないな。
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