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    reluto1110

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    ホラー書きかけ

    【クズ男】カリスマの家で泣く生き霊【自業自得】【クズ男】カリスマの家で泣く生き霊【自業自得】


    「タケミチ! ここ」
    「あっ、竜胆君」
     武道は自身に向かって片手をあげ声をかける男の元へ小走りに駆け寄った。
     本日は既に定例になっている灰谷兄弟との飲み会の日である。と言っても成人まで残り一年程の武道は悲しく健全にジュースを啜るのだが……。
     武道は待ち合わせをしていた竜胆の元へ辿り着くと彼を見上げて首を傾げた。
    「今日はどっか行くんッスか?」
     いつもであれば通い慣れた灰谷家で行う定例会。だが今日は珍しく家主である蘭の一声によって場所を変えるらしい。ただ、武道はそれが何処で行うかを聞かされていなかった。
     それでも蘭の気まぐれなんて最早デフォなので「そういう日もあるんだな」なんて軽く考え気にも留めていなかったのだが……。
    「あー、まぁオレに着いてこれば良いって。それより近くで買い物して行くぞ」
    「店とかじゃねーんすね」
     武道の何気ない問いに対して竜胆の返答は歯切れ悪かった。気まずそうに目を泳がせ言葉を濁し、話題を変える。きっと他の誰かであれば竜胆が何かを隠している事など瞬時に理解できていただろう。だが相手が「鈍感の権化」花垣武道だったので竜胆の隠し事は無事に明るみには出る事は無かった。
     二人して目に付いたコンビニへ向かうと武道が持ったカゴの中に次々と竜胆が酒を入れていく。どんどんと重くなるカゴ。武道の腕にはカゴの取ってが食い込み、重みでプルプルと震えていた。
    「相変わらずどんなけ呑むんだよ」
    「おッ! これ新しい味出てんぞ」
    「わっ本当だ」
     聞こえないくらい小さな文句を垂れていると少し離れた所に居る竜胆が菓子コーナーを指差しニッカリ歯を覗かせて笑い、武道に声をかける。その彼が指差した方へ視線を向けると、ずっと気になっていた目当ての菓子が陳列しており、思わず事に声を弾ませて喜んだ。
     そうしてチョロいもので菓子一つに釣られてしまい、会計時にはおよそコンビニでは支払う事の無いような額を叩き出したのである。
     もちろん支払いは竜胆の黒いカードで。
    「おもーい……竜胆君待ってぇ」
    「オマエまじ非力だな」
     買い物袋四つ。二つずつ持ちながら歩く。ずっしりとした重みに思わずヨタつく武道を少し前を歩いていた竜胆が呆れ気味に振り返った。
    「んな事言って! これほとんど二人の奴じゃん!」
    「ザンネーン。今日はオレとアニキだけじゃねーのよ」
    「はえっ⁉︎」
     ここにきて初めて本日の定例会に第三者が居ることを伝えられ武道はキョトンと両眼を瞬かせた。今まで両手で数えないと足りないくらい開催されたこの定例会に武道は自分以外の客を見た事が無いのだ。その疑問を少し前に主催者の蘭に尋ねた事がある。だが蘭は「んーそうだっけ?」とあからさまに返答を誤魔化していた。少しばかり長くなった付き合いで蘭がこう言うのであれば、絶対に本当の事は聞けないと学んでいる武道はそこですっぱりとこの話題を口にするのは辞めたのであるけども、どうやら何か事情があった訳では無さそうだ。
    「誰が来るんですか? 何人?」
    「アッ? 一人だけど? じゃねーとこれぽっちの酒じゃ足りねーだろ」
    「いや……十分では?」
    「早くタケミチも酒飲めるよーになれよなー」
    「あと一年待ってくださいよー」
    「族で総長代理張ってたくせにクソ真面目なんだよ。ったくしゃーねーから初体験はオレが貰うからな」
    「言い方‼︎」
     竜胆はそう宣うと武道がよたつきながら持っていたビニール袋を一つ奪い取りそのまま何事もなく歩き始めるのだった。
    「くそ……イケメンめ」
     思わず乙女よろしくトキメキそうだったと後に武道は語る。

     定例会の会場は灰谷が生活の拠点にしている六本木のタワーマンションからさほど遠くない所であった。何度も足を運んでいる成功者だけが住む事の許されたタワーマンション程では無いものの、今後も武道の収入では借りる事が出来なさそうな洒落たマンションの一室だ。
     エレベータで三階まで上がり、竜胆がインターフォンを押す。すると中からガチャリと鍵が開いた音が聞こえた。そして扉を開けた人物を視界に入れると武道は思わず「げッ⁉︎」という失礼な声を漏らしてしまう。
    「お久しぶりです。花垣さん」
    「や……山田……さん」
     武道の態度に眉一つ動かさず、淡々とした口調で迎え入れた男……山田とは、半年程前に無理やり連れて行かれた廃ホテルにて初めて会った謎の男である。(武道からしたら)
     灰谷兄弟の手下の一人との事だが、やたらとガタイが良く強面の男達が多い中で山田は毛色の違う人物であった。口調は丁寧で落ち着いた雰囲気の大人な男である。ただこうも武道が苦手意識を持っているのはその時の出来事が原因だ。
    「オ……オレかえ……」
     思わず腰が引け、逃げる様に後ずさった。だがそんな武道の行動など予測済みとでも言うように室内から突如伸びてきた手に腕を捉えられればそれも叶わなくなる。
    「逃げんなよータケミチ♡」
    「ら……蘭君……」
     武道の腕を捉えたのはこの場で絶対的な権力を持つ灰谷蘭であった。ニコリと柔和な表情を浮かべているがその実両眼は笑っていない。また、どことなくその両の眼球は血走っている様に感じられた。思わず圧倒され武道の口からは「ひっ!」と言う小さな悲鳴が漏れ出る。
     そんな蘭の背後で竜胆が呆れた様にこちらを伺っており「今は言う通りにしておけ」と視線で訴えられた。
    「お……オジャマシマス」
     蘭から解放されたのは武道が玄関で靴を脱ぎリビングに足を踏み入れた時であった。

    ◇◇◇

     玄関からリビングまで続く廊下にてある程度予想はしていた。予想はしていたが、やはり三脚に装着されたビデオカメラを見てしまうといつかの恐怖がぶり返して足を震わせる。
    「竜胆君、今日っていつもの飲み会……ですよね?」
     酒、いっぱい買ってましたよね?淡々と撮影準備をする山田を眺めながら隣の竜胆を見上げる武道の声はいつもの様に弾まず低い。
    「あー飲み会は飲み会かな」
    「どーゆー事ですか⁉︎」
     竜胆の返答はまたもや歯切れの悪いものだった。渋面を作りながら視線を泳がせている。その態度に不安から一変苛立ちを覚えた武道は両眉をキュッと中央に寄せると竜胆を睨み付けた。
    「きっちり説明してください‼︎ じゃないと次のゲーム配信の相手オレじゃなくて春千夜君になりますよ!」
    「げッ⁉︎ 分かったよ。じゃちょっとこっち来い」
     必殺「春千夜君」攻撃。これはなかなか効果テキメンでこのカードを使用すれば竜胆なら大概の事は叶えてくれる。※ただし蘭には絶対に使ってはいけない。
     今回も見事必殺技が効き、長嘆を漏らしながら竜胆が武道を廊下に出る様促した。そして武道の肩に腕を回すと顔を寄せヒソヒソと今回の経緯を話し始める。

     このと始まりは三ヶ月ほど前であった。
     本来の灰谷兄弟が住む六本木タワーマンション高層階。自室にていつもの通り深夜、ベッドに潜り込んだ蘭が微睡んでいるとどこからともなく微かに人の声が聞こえたそうだ。
     最初は弟の竜胆が誰かと電話しているのだと思った。それでも睡眠の邪魔をされ苛立ちを覚えた蘭は起きたら殴ろうと顔を顰める。だが不明瞭な声は竜胆とは違う事に気がついた。耳に付く高い声はどうやら女のものであるらしい。
     一応口には出した事は無いがお互い自宅に女を連れ込む事は禁止にしている。そうとなればその禁止事項を破り竜胆が女とベッドに雪崩れ込んでいるのかと結論付けた蘭は、気怠げに体を起こすと足を踏み鳴らしながら竜胆の部屋へ向かう。例え全裸で睦み合っていたとしてもこの家から摘み出してやろうと考えながら。
     だがその不快な苛立ちも竜胆の部屋のドアノブに手をかけた瞬間になりを顰める。そういえば、今夜竜胆はクラブに行っていて不在ではなかったか……?と。
     やはりと言った方が良いのか、大きく開いた扉の先。竜胆の部屋には弟どころか人一人居なかった。
     そこから毎晩、蘭が寝静まろうとしたタイミングで必ず聞こえる女の声。一度深い睡眠に入ればそっとやちょっとで目が覚めない蘭でも寝静まるタイミングになればその声が気になり夢の中に身を委ねる事も出来ない。だがその声の正体を突き止めようと部屋中歩き回ってもその声の主の姿どころか髪の毛一本でさえ見つからなかった。
    「あ、だからあんなに眠そうなんですね」
    「機嫌もクソ悪くてさぁ、オレ以外の奴なんて目が合っただけで殴られてるよ」
    「げぇッ! じゃあなんでオレ呼んだんですか⁉︎ 殴られたくねーんですけど」
    「バッカだなぁ、寧ろ逆だろ? 安定剤」
    「……どーゆ」
    「何さっきからコソコソ仲良くしてんだ?」
    ────蘭ちゃんも混ぜて?
     話に夢中になっていた為つい周囲の警戒を怠っていた。二人の会話に突如割って入ってきた声に武道もそして竜胆も顔を青くさせてゆっくりと振り返る。そこには腕を組んでにっこりと微笑んでいる話題の人物が小首を傾げて二人を見ていたのだ。ただしその双眸に一切の笑みは含まれていない(再び)。
    「「ハワワワワ」」
     成人男性からは決して出ないであろう悲鳴が上がる。そして二人して死を覚悟した。お互い顔を見合わせ頷く。顔色悪いィなと。
    「とりあえずータケミチはこっちな?」
    「ぐえッ」
     武道は蘭に首根っこを掴まれるとそのままズルズルと引き摺られ、リビングへ逆戻りする。そしてリビングの中央に鎮座したソファーに仰向けにひっくり返った。
    「ハァァねみぃ……」
     軽々と武道を投げた蘭は彼が起き上がる間も無くソファーに膝をついて乗り上げると自身と違い薄いが柔らかな武道の腹に顔を埋め、そのまま静かに寝息を立て始めたのだ。
    「ね……寝てる……」
     突然始まった蘭の枕という高難度ミッションに武道からまろび出た声は困惑を含んでいた。なんとか腹筋に力を込め上半身を起こすと細心の注意を払い蘭の頭部を腹から膝に移す。そんな武道の隣を肩が触れそうな距離で竜胆が腰掛けた。三人の体重を支える事となったソファーが非難めいた様にギシリと音を立て沈む。
    「まぁ、そのままにしといてやってよ」
     竜胆は既に缶ビール傾け喉を鳴らしていた。「他人事だと思って」とブツくされる武道の声も目を細めるだけの反応のみである。そこに撮影機材を設置していた山田がコンビニで買ってきた飲み物や菓子の入ったビニール袋を持ってきて武道でも取りやすい様ソファーの前にあるテーブルの上に置いていく。そして好物のポテトチップスの袋を開封し武道の前に置くきめ細やかな配慮に武道は感動と同時にトキメキで口を両手で押さえたのだ。
    「山田さん……スパダリ」
    「そんな事ありませんよ」
    「はぁ? タケミチ、オレは?」
    「竜胆君はさっきの買い物でさりげなく袋持ってくれたのはトキメキましたけど今ので帳消しですよ」
     プシュッとプルタブを開けた缶から炭酸が抜ける音がする。紫色のグレープ味炭酸飲料500ml缶を豪快に煽る武道は廊下でのやり取りから大分話が脱線している事に気がついた。
     確か現在自身の太ももを枕に静かに寝息を立てている人物に起きた不気味な出来事についてだったはず。話の内容から明らかに人間の仕業では無いそれに背筋にピッと寒気が走る。武道はサラッと指をすり抜ける蘭の髪を梳いた。相当睡魔が限界だったのか何度髪に触れても蘭はピクリとも動かない。
    「見解的に生き霊かと思います」
     三脚に設置されたカメラの死角に椅子を置いて座る山田がポツリと話始める。分かっていても「霊」というワード一つで臆病な武道は一気に怖気に襲われ悲鳴をあげたくなった。だが然し現在、霊より恐ろしいミッションをこなしている真っ只中な為その悲鳴は何とか飲み込み、隣に座る竜胆を見上げる。その竜胆は「生き霊?」と山田からの言葉に首を傾げていた。
    「生き霊とは字の如く生きた霊です。正確に言えば生きている人間が無意識に魂の一部を飛ばしていると言われています。そして多くが恨みや行き過ぎた好意などの感情を向けている相手の元に飛ぶそうです。今回も蘭さんはその類に巻き込まれたのかと」
    「あー納得過ぎて何も言えねぇ」
    「えっ? 要は蘭君の日頃の行いから引き起こされた事象ってこと?」
    「まぁ、良い意味でも悪い意味でも人を惹きつける方ですからね」
     果たして恨みからか愛からか……だがどちらも行き着く先は同じなのだろうなと漠然に考える。その生き霊かもしれない女はきっと蘭へ並々ならぬ好意を向けているのだろう。だが行きすぎた好意はいずれ憎しみを生む。特にその愛を向けた相手から同じだけ好意が返ってこない時など。
    「うーん……オレにはわかんねぇです。だって好には幸せになってもらいたいものでしょ?」
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