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    siatn_shell

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    拒食症のオクに口移しで食べさせたり飲ませたりするオビのオビ→←オクなシアオクSS。まだ付き合ってないけどそうすることには慣れてる二人。

    #シアオク
    sheaOk

    言葉は要らない 私は、彼の異常に、いち早く気が付いていた。打ち込んだ興奮剤が切れた直後のふらつき、平常な態度とは裏腹に異様なほど乱れた心音、物資を漁る指先の震え。不調を隠すのに慣れている様子だが、私の目は誤魔化せない。連戦に連戦が重なり、惜しくも二位で終わった試合の後、私はドロップシップに戻るシルバの背中を追った。同じくシップに帰ろうとするレジェンド達の最後尾を歩く彼の足取りは、ゆったりとしているようでどこかおぼつかない。カッとなりやすい性分のせいで、いつもより小さく見える背中に我慢できなくなり、足音を立てず、後ろから彼に急接近する。
    「――おわっ!」
     誰も見ていないのをいいことに、両腕で彼の体を横抱きにして持ち上げれば、シルバは虚を衝かれたように声を上げた。いわゆるお姫様抱っこというやつで、腕の中で私の顔を見上げたシルバが体を硬直させる。本気で嫌がるなら下ろすことも考えていたものの、萎縮するように、怖がるように身を縮こませて震えるものだから、優しく彼を見下ろして微笑みかけた。
    「……ご安心を。取って食うような真似はしません」
    「じゃあ……どういう……」
    「強いて言うなら、お節介とわがままです。これから私の家に連行しますが、暴れないでくださいね?」
    「ッオイ、このまま移動すんのかよ!?」
    「どうしても歩きたいのであれば構いませんが、肩ぐらいは支えさせてください。道中で倒れられても困りますから」
    「……、……途中で、おろせ」
     頭をすり寄せる仕草に、おや、と思う。弱っているのを見透かされて、強がるのを諦めたようだ。はいはい、と仕方なさげに小さく笑って、ドロップシップに背を向ける。人通りが見受けられないところまでは抱いたまま歩き、ちょうど腕が疲れた頃合いで彼をおろして、彼を支えながら帰路を進んだ。私達を照らす夕暮れの赤が、空の果てまで燃えていた。


     ドロップシップの送迎がしやすい場所に、仮住まいの家がある。二階建ての、一人で暮らすには少々広すぎる家だ。来客用の寝室も無駄に設けてあるが、あえて私の寝室のベッドに彼を寝かせた。義足がシーツにめり込むのを見て、外させるか一瞬悩んだが、まずは彼を休ませることが先決だ。大人しく寝転がる彼を横目で眺めながら、私もベッドの縁に腰掛ける。
    「今日の朝と、昨日、どんな食事をしたか、答えられますか?」
    「…………」
     沈黙は雄弁で、大きなため息を一つ。剥き出しの腹筋を指でなぞれば、ひくりと彼の体が跳ねた。シルバはゴーグルの上に腕を乗せ、暖色の照明を視界から遮ったようだった。
    「……昔よりは、食べてる。少ない量だけどな」
    「そういえば、少し前にパラダイスラウンジで食べていましたね。あの時は安心したのですが……未だに拒食は健在ですか」
     無言で小さく顎を引く彼に、二度目のため息をこぼした。
     彼は私と出会った頃から少食だ。行きすぎた偏食と表現してもいい。育ちはいいはずなのに――その育ちの良さが原因かもしれないが――食事への関心が異様なほど薄く、必要最低限の栄養素しか摂ろうとしないのだ。しっかりとしたメニューを食べようとすると、喉に通りにくくて吐きそうになる、とも言っていたのは記憶にある。そんな極端な食生活に、過剰な運動量を体に強いて、大量の興奮剤を体に流し込んでいれば、不調なんていくらでも表出するだろう。
     待っていてください、とささやいて、キャップ越しに頭を撫でてから寝室を去る。冷蔵庫と冷凍庫を一通り眺め、昨夜作り置きして冷やしておいた手作りのミックスジュースと、カップアイスを取り出す。寝室まで運ぶ頃には両手が冷たくなっていて、サイドテーブルにそそくさと並べると、息を吹きかけて両手を擦った。視界の隅に映るシルバは、仰向けでゴーグルの上に腕を置く姿勢から変わらないまま、じっと私の気配を窺っている。心音が僅かに速くて、その速さには覚えがあった。過去を想起して、予感しているんだろう。私は吐息だけで笑った。

    「オクタビオ、」
     ――食べさせてあげましょうか。
     帽子を枕のかたわらに置き、アイスの蓋を取りながら、低く言い聞かせる。私達だけの、夢心地な時間を開始するための合言葉。
     彼の白い喉がごくりと上下して、そろそろと伸ばされた指が、黒いデザインマスクを下げた。彼の心音が、少しずつ加速していく。
    「……うん」
     小さな返事に、良い子ですね、といつも通りささやき返した。
     付属のプラスチックのスプーンでバニラアイスをすくい、自分の口に運ぶ。甘さと冷たさが舌の上に広がり、溶け切らないうちにと、アイスを手に持ったままベッドに乗り上げた。シルバに覆い被さり、そっとくちびるを重ね合わせる。
    「ん……ふ、ぅ……」
     何度か啄めば、素直に隙間が作られ、そこにアイスごと舌を差し込む。冷たいそれを彼の口の中に送り込み、完全に渡し切ったのを見計らってすぐに口を離した。もぐもぐと咀嚼する彼の口元を眺めて、湧き上がる慈愛と、昏さと甘ったるさが混在した名状しがたい感情に、うっとりと目を細める。タイミングを見てもう一度アイスを口の中に入れて、シルバに口付けて、口移しをする。それを何度か繰り返した。私の口内も、彼の口内も、同じバニラの甘さと冷たさで満ちる。
     しばらく続けていくうちに、彼が私の服を引っ張った。もういらない、の合図だ。アイスのカップをサイドテーブルに置いた私は、次にミックスジュースで喉を潤す。果物の酸味と甘さが程よくミルクと調和して、隠し味のはちみつがコクを演出している。味が落ちてないのを確認して、少しだけ口に含んでから、シルバのくちびるを再び塞いで、ごく自然と開かれたくちびるの隙間に、ミックスジュースを流し込んだ。むせないようにゆっくりと、彼が飲み込むタイミングに合わせて、量を調節しながら。
    「っぷは……うめえ、な。相変わらず……」
    「でしょう?」
     ふ、と吐息を吹きかけて微笑みかければ、ゆるやかに伸ばされた腕が、私の背中に回される。片方の手は私の後頭部に添えられて、誘い込むようにやわい力が込められる。それに従って、明確な意図を伴わせて、シルバのくちびるに己のを重ねた。親鳥が雛に餌を与えるような行為とは打って変わって、ただの人間くさい衝動と欲求のみで構築された、甘味よりも糖度の高いキス。
     舌先で歯列をなぞり、弱いと知っている上顎をつつけば、それだけでシルバはふるりと震えた。逃げる舌を絡め取って、音を立てて吸い上げる。あまやかな彼の声が抜けて、耳に心地よく浸透した。バニラの名残と、ミックスジュースの爽やかな風味が互いの口の中で踊って、悪くはない調和がムードを甘酸っぱく助長させている。キスの味は、いつも決まって同じなのだから。昔も、今も。願わくば、これからも。
     貪り合うようなキスに、深い意味はない。二人して、意味を持たせることを避けていた。恋慕の情動が発芽する瞬間を恐れて、だけど口移しの後のキスだけは、いつもどうしてもやめられなかった。やめようともしなかった。与える熱と与えられる熱に、気が付いたら溺れていて、艶然としたムードにあてられて。ふつふつと湧き上がった素直な欲求を押し付け合うように、無我夢中でキスをしてきた。彼が脚を失う以前から、拒食の彼に栄養を与えようとするたびに、そうしてきたのだ。
     これは儀式だ。私のお節介とわがままだ。それ以上を考えてはいけない。考えたら最後、泥沼が輪郭を得て、堕ちるところまで堕ちるしかなくなる。
    「は、ふ、んん、ッふぅ……」
    「ん……オクタビオ……」
    「ふぁ、オビ、っは……なあ、オビ、ンッ」
     泣きそうな声で呼ばれて、それを遮るように更に深く口付ける。そろそろバニラアイスもミックスジュースも影が薄まってきて、彼の呼吸も酸欠で浅い。いつも通りなら、ゴーグルの下の目は、とろんととろけて潤んでいるはずだ。その目を見たら、私は我慢できなくなる。だから見えなくて正解だ。
    「は、ぁ……ッ、おび、っふ、」
     とうとう肩を押されたので、ゆっくりと解放する。銀糸が繋がって、垂れ落ちる先は彼の口元だ。涎が彼の顎を濡らして、艶やかにてらついてる。ぐいと自分の口元を手首で拭った私は、こらえるように眉根を寄せた。
    「……私も、一人の男です。あなたがレジェンドとなって、一度離れ離れになってから、私は自分の気持ちに嘘をつけなくなりました」
    「……、……」
    「嫌いな相手に、ここまでのことは出来ません。私はいつだって、貴方を想っていました。貴方は……どう――」
     なんですか、と続くはずの問いかけは、彼からの勢いのあるキスに飲み込まれていった。必死に追い縋るような、積極的に舌を絡めようとする拙いそれに、恋愛ごとに不器用な彼なりの意地と答えを汲み取る。言葉は要らない、と言いたいのだろう。散々言葉も無くキスを続けてきたのだ。本当は必要であっても、今はそれでいいのかもしれない。すべてを食べ尽くすキスに物言わぬ彼からの情愛を感じ取って、うぶな恋心があたたかさで満ちるのを噛み締めながら、そっと目を閉じて、彼の体温に溺れ尽くした。
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    siatn_shell

    DONE拒食症のオクに口移しで食べさせたり飲ませたりするオビのオビ→←オクなシアオクSS。まだ付き合ってないけどそうすることには慣れてる二人。
    言葉は要らない 私は、彼の異常に、いち早く気が付いていた。打ち込んだ興奮剤が切れた直後のふらつき、平常な態度とは裏腹に異様なほど乱れた心音、物資を漁る指先の震え。不調を隠すのに慣れている様子だが、私の目は誤魔化せない。連戦に連戦が重なり、惜しくも二位で終わった試合の後、私はドロップシップに戻るシルバの背中を追った。同じくシップに帰ろうとするレジェンド達の最後尾を歩く彼の足取りは、ゆったりとしているようでどこかおぼつかない。カッとなりやすい性分のせいで、いつもより小さく見える背中に我慢できなくなり、足音を立てず、後ろから彼に急接近する。
    「――おわっ!」
     誰も見ていないのをいいことに、両腕で彼の体を横抱きにして持ち上げれば、シルバは虚を衝かれたように声を上げた。いわゆるお姫様抱っこというやつで、腕の中で私の顔を見上げたシルバが体を硬直させる。本気で嫌がるなら下ろすことも考えていたものの、萎縮するように、怖がるように身を縮こませて震えるものだから、優しく彼を見下ろして微笑みかけた。
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