抱きしめたい 足繁く年中望舒旅館へ通いつめていれば、自然と道中の草花や生き物に目が行き、季節の移り変わりをまざまざと実感することが多くなったように思う。
先日まで吹いていた肌を突き刺すような冷たい風は、いつの間にか地から芽を出し花を咲かせる暖かい風に変わっていた。
暑さや寒さは、人の形をとっているからといって、凡人程に気温の変化に対して身体が堪えることはない。それは、仙人である魈も同じだろう。だが、この春という季節に魈に会えることは少しの楽しみでもあった。
「し、鍾離様……いらしていたのですか」
気配を消して、望舒旅館の露台でうららかな日差しを浴びつつのんびり茶を飲んでいると、今思い浮かべていた護法夜叉が顔を覗かせていた。
2003