詮無い話0
俺は今、落ちている。それも随分と長い距離を、頭から真っ逆さまに。
見渡す限り闇の中、バタバタとはためいて身体にまとわりつく制服が、風を切る両耳の冷たさが、「落ちている」という状況に対して必死に警鐘を鳴らす本能のすべてが、自由落下を如実に伝えてくる。このままだと、あと何秒か後には頭がひしゃげることだろう。何を悠長に構えているんだという話だ。──ここが現実世界であるならば。
状況からして、間違いなく敵の術式にからめとられている。この落下の体感は幻だろう。そう断じられる理由は、現状呪力が全く練れないからだ。
最初は大いに焦った。式神を呼び出そうにも、いつもなら自分の延長線上にある影がぷっつり途切れてしまっているようで、練った呪力がそのまま指先から逃げていく。放出ではなく体内の巡りに集中してみても、それがしれっとどこからか拭き取られていくような感覚がして、しかも漏れ出ていく穴の場所も分からないときた。
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