シアノスの婚礼「伏黒〜〜、おらよっ」
「なんでも投げて渡すな、ホコリ立つだろ」
軽快な言葉と共に虎杖から投げてよこされたのは、ついこの間洗濯して仕舞ったはずの厚手の肌掛けだった。ベッドの上で本を読んでいた伏黒は、膝あたりに落ちたそれを見て怪訝に思う。
小言を述べつつ受け取ったそれは、確か去年の春頃に一緒に量販店で買った、青みの強い緑色の大判サイズの肌掛け。肌触りがいいから伏黒も気に入っているが、なんだって今これを。
「なんか天気落ち込んで、今晩気温下がるらしいんだよね。タオルケットじゃ流石に寒ぃかなぁって」
「へぇ」
収納スペースを片付ける虎杖の逞しい背中を見遣ってから、天気を確かめるため試しに窓を開けてみた。ガラスがサッシを滑るにつれて、スーッと冷えた風を身に受ける。なるほど、星は欠片も見えないし、遠くの方からの雷の嘶きも微かに聞こえる。雨が降るなら多少の湿気はありそうだが、乾いた北風は梅雨前とは思えないくらい冷たい。
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