こんな日もあったねこの後めちゃくちゃ大乱闘した
「そこの若い騎士様たち! 一杯飲んでかなーい? サービスするよ」
「お。なァ寄ってこうぜ」
「あ? またグリンダにドヤされんじゃねぇか」
「アレはおまえが派手にケンカしやがったからだろーが。管巻いたおっさんに絡まれたくらい受け流せねぇモンかねぇ」
「うっせーな、好き放題言われっぱなしでうまい酒なんか飲めっかよ! オマエも結局手出したじゃねぇか」
「おれは降りかかる火の粉を払っただけだっつの。昔からおまえと居るとやたら変な流れになんだよなァ、ノイル。毎回なんなんだ」
「ンなことオレが聞きてぇよ! つかオマエについてった先で巻き込まれただけのもあっただろが、全部オレだけのせいにすんじゃねぇよ!」
「ったく、うっせぇなァ……」
「お兄さんたち? 入るの? 入らないの?」
「チッ、麦酒ふたつ。ノイルよォ、久しぶりに飲み比べでもしようじゃねぇか。負けた方が反省文担当な」
「反省文前提かよ……。まぁ乗ってやる。後からグダグダ言いやがったら輪切りだかんな」
「おーおー、そんときゃおまえも削ぎ切りでお夜食行きだ」
────追いかけっこ、こけこっこー
「ユーージーーン! その犬! 捕まえてくれ!!」
「は……ノイル?! なんでワンコロなんか追っかけて……、って、なんでおれを追っかけてくんだワンコロ〜?!?!」
「捕まえろ!! 捕まえろって!!」
「無理だろこいつおれのこと食い殺しそうな目で見てやがる!!」
「逃げんなってぇえ!!」
「逃げてねぇよ! 逃げてねぇよ! 噛まれねぇように避けてんだよ!」
「逃げてんだろが!!……っし追いついた! 奪られた手紙、返してもらうぜ……!」
「……あ? 手紙だァ? ンなもんワンコロが持ってるワケねぇだろ」
「あ? 確かにコイツが……。……も、持ってない……」
「……おまえがすげぇ形相で追っかけやがるからどっかで落としたんじゃねぇの」
「な……、何ィイーーー?!?!」
「おら、来た道もう一周してこいよ。早くしねぇと風とかで飛んでっちまうぞ」
「クッソ、オマエあっちから探せよ! オレは向こうから回る!」
「は? なんでおれが手伝……おい待ちやがっ、速!! そもそもどこ走ってきたんだよ?! おい! ノイル!! 待て待て、待てって!!」
────いつまでも青いね
「……書簡が真っ青なんだが。今回はどちらの責任だ?」
「「こいつ/コイツ」」
「…………。一体なぜこんな色になったのか説明できた者は処罰を減免してもいい」
「ユージンがテキトーに扱ってて風で飛んでったんだよ」
「そこにノイルが飛びついて、その勢いのまま果物屋に飛び込みやがった」
「……成程、両者に責任があるな。では貴殿らに素振り一万回を命ずる。明日までにこの紙の裏と表に反省文をしたためて提出もするように」
「なっ、オレは悪くねぇだろ! ユージンが手紙をちゃんとしまっときゃンなコトには!」
「ノイルが突っ込まなくてもそのうち落ちてたっつの、キレイな地面にな」
「は?! オマエの失敗をどうにかしようとしてブルーベリーまみれになってやったんだろが!」
「ブルーベリーまみれになってくれなんて誰も頼んじゃいねぇよバーカ、弁償も処罰もてめぇ一人で負いやがれ」
「テメ……、上等だコラ、表出ろ。夕飯入んなくなるまで土舐めさせてやる」
「あ? おまえにやれんのかよ、ノイル。ガキの頃はつまんねぇことでビービー泣いてたくせによォ」
「……立場ある身でなければ、私自ら両者に鉄槌を下せたんだが」
「「ヒッ……?!」」
「遺憾ながらそうした行動は慎まねばならない。……よって騎士団長として改めて両者に命ずる。素振り三万回、反省文五枚。明日の朝礼までに提出が確認できなければ同じ罰を追加する」
「ふ、ふざけてやがる……」
「グリンダ、おまえおれたちに人間やめろって言いてぇのか……?」
「騎士として育むべき精神が貴殿らには足りていないようだからな。これを機に自らの行いを省み、次回の行動に活かすといい。この件に関する私の所感を端的に告げるならば、……お前たち、いつまでも喧嘩ばかりするな」
「「すいません……」」
────あの日の頬は誇らしげに赤くて
「今日は赤か」
「「…………」」
「無言で互いを指さすな。トマトか、これは」
「言っとくが今回オレは突っ込んでねぇ!」
「誇らしげに言うな、言いながらユージンを差し出すな。ユージンがトマト色になっていることは見ればわかる」
「……なぁグリンダ。こいつと居ると俺まで貧乏くじ引くんだが」
「ああ、恩に着る」
「着るな! おまえら姉弟はなんで妙なトコでフワフワしてんだよ、髪質だけにしねぇかそういうのは」
「確かにユージンの髪はまとまりがいいよな」
「ああ、羨ましいものだ。私もノイルも毛量が多くて広がりやすい」
「なんかもう今日だけは帰ってもいいか……?」
「いや、処罰をまだ伝えていない」
「おまえのそういう生真面目なトコ、すーげぇ憎らしく感じる時があんだよな。昔から優等生で大人どもにも可愛がられやがってさァ」
「ユージンは頼られてたじゃねぇか。あんま輪に入れなかったオレの面倒を頼まれたり」
「……今思うと貧乏くじはおれからかァ……」
────おとこ・こいばな
「いってぇ……」
「よォ、男前になったじゃねぇの。……って何日連続で言わせんだコラ、褒められたがりかおまえ」
「うっせ、オレだってやりたくてやってねぇ。襲われてる商人助けたら賊がぞろぞろ出てきて殺り合いになったのが最初で、先輩に囲まれてケンカ売られたのがその次、歩いてたら上から植木鉢降ってきたのがその次で、今日は乱闘を収めようとしたらなぜか全員オレ狙ってきやがった。おら、全部オレ悪くねぇだろが」
「どーやったらンな刺激的な毎日が送れんだ、あァ……? 恋バナなんかメじゃねぇぞ」
「……恋バナって言や、オマエこの間の縁談どーなったんだよ? 会食があるっつってたヤツ」
「ハッ、どうもこうもねぇよ。おれが孤児院育ちだって知った瞬間顔色変えやがった。良いとこのお嬢サマは野良犬と同じテーブルじゃメシなんか食えねぇってよ。見下しやがって、あの家門いつか潰してやる」
「初対面でまずソレ言っちまったらたいていの貴族はびっくりすんだろ。ソレも相手は箱入りだぜ」
「お優しいじゃねぇか、ノイル。だったらおまえは生まれを隠してうまくやってんだろうなァ? おまえも縁談入ってたろ、どうなった」
「……付き合ってるよ」
「へぇ! 爵位は? 同じ子爵の売れ残りか?」
「侯爵だ。けどまぁ……次会った時にでも断り入れるつもりだ。オレのちょっとした言い回しにいちいちビクつかれんのとか、仕事の話すると貧血起こすのとか、流石にやってけねぇと思うし」
「結局荒っぽいとこを嫌われてんじゃねぇか。ま、どうでもいいけどよ。……おれは婚姻なんかなくても、実力で上り詰めてみせる。騎士団牛耳って、七光り頼みの中身のねぇやつらを屈服させる」
「……おう。オレも自分の剣で道を切り開いてみせる! 一緒に頑張ろうぜ、ユージン!」
「……チッ。せいぜい頑張ってみろよ、ノイル」
────こんな日もあったね
「なぁユージン」
「あ? ンだよマジメなツラして」
「いつもありがとうな。小せぇ頃からずっとオレなんかと居てくれてよ。なんか起こった時、あーだこーだ喚きながら結局一緒に片付けてくれんのも、横で見守っててくれんのも、助かってる」
「…………、急にどーしたよ。ついに懲戒でも食らったか」
「いや、たまにはきちんと伝えときてぇなと思ったんだよ。こんな仕事してっといつ命を落とすかわかんねぇだろ? オマエに感謝のひとつも伝えられねぇで死んじまったら、空に還れないでこの世を彷徨っちまうかもしれねぇ」
「……ハ、思い出した。おまえガキの頃にそういう話聞いて夜眠れなくなってたよなァ。真夜中になってもずっと話しかけてきやがってさァ」
「あー。そん時は確かオマエに額触ってもらって、ようやく安心して寝たんだっけ」
「どんな記憶の改変だよ、いい加減寝ろっつって頭押さえてただけだっつの」
「あん時オマエ、どんくらい起きてたんだ?」
「あ? おまえ寝かせたらすぐ寝たに決まってんだろ。おれはおまえみてぇにビビって震えたりしねぇんだから」
「ユージン……。オマエってたまに兄貴みてぇだよな」
「気色悪ぃこと言ってんなよ。はぁ、この話おしまいにしようぜ。気分悪くて鳥肌立ってやがる」
「おう。いつもの酒場寄ってくか? だったら今日はオレが奢るぜ」
「チッ……。いい。おれが奢る。金輪際エラそうにすんなバカ野郎」