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    末っ子ちゃんに付き合っていることがばれてしまった二人の話。

    #シモ樹
    merchantPine
    ##ハンセム

    スケアクロウ(シモ樹) 世界の終わりは塗料は剥げ細部は欠けボロボロになってもそれでも大切に手放されないキーホルダーの落ちる音で知らされた。
     そのキーホルダーはまだ知名度もお金も何一つ持ってはおらず、世界を制覇するという壮大な夢と寮と言う名の三人の家だけを持っていたそんな頃。愛され上手の末っ子がその三人だけの秘密基地の扉の鍵につけるそろいのものが欲しいと駄々をこねて三人で買ったものだ。未だにそれをシモンとヒジュンは家の鍵から外したことはないし、樹だっていまだにそれを捨てずに机の奥にしまい込んでいることを二人は知っている。
     それが落ちる音で全てが終わるのは大変におあつらえ向きで絵になりすぎていた。
     そう、見られてしまったのだ。ヒジュンに。自分たちのキスシーンを。
     裸ではなかったのがまだ幸運だったか、だなんて冗談は笑えない。ヒジュンに隠れてシモンと樹が所謂恋愛的な交際を始めた時、勿論そのことをヒジュンに告げるかは真剣に議論が交わされた。色々悩みぬいた末に「告げない」と決めた時、絶対にシモンの部屋では恋人として触れ合うのはやめようと決めた。ヒジュンに見られる可能性がある、という理由だけではなくて、ここは二人の家だから家主に許可もなく一線を越えるような真似はしたくなかった。
     それだというのにその禁を破ったのはどちらだろうか。触れたいと言ったのはシモン。まんざらでもないという顔をしてしまったのは樹。言い訳をしようにもばっちり舌まで入れているところを見られてしまった。
    しばらく会えない日が続いて、これからも二人きりになれるような日は無さそうで、それからヒジュンはソロで出す曲のことで夜中まで帰ってこない予定で。それでちょっとだけ魔が差した。
    カシャンという軽い音に跳ねるようにして四つの目が目線を向けた先、口元を抑えるようにして戦慄くヒジュンの姿があった。
    「や、ヒジュン、これは」
     いつもならF1カーのモーターよりもよく回るシモンの口が今日に限って錆びついたように動かない。肝心な時にポンコツだ。樹はと言えば綺麗な顔を彫刻のように固まらせたまま動かない。
     動き出すのはヒジュンが早かった。さっと足元に転がった家の鍵を拾ってその身をひるがえす。リビングから玄関に向かう足音、靴を履き替える音、それから玄関の閉まる音が聞こえて世界は無音になる。
     それが一時間くらい前の事。
     この家は今、葬式を三軒ばかり梯子してきたかのような重苦しい空気に包まれている。ソファーに座ったまま虚ろな瞳でぼんやりと虚空を眺め続けている樹をシモンは横目で眺める。
     出来心でこんなことをしなければよかった。そもそも最初からヒジュンに伝えておけば良かったのだ。そうすればこんなことには、そこまで考えてはたと思考を止める。本当に最初から伝えておけば良かったのか。伝えたのならばヒジュンはどんな反応を示しただろうか。三人で家族同然に過ごしてきたというのに、自分を除いた兄二人が付き合っていると聞かされて怒ったり、悲しんだりしたのだろうか。怒られるのはいい、悲しまれて、あの丸くて可愛い瞳からぽろぽろ涙を流されてしまったらその場で喉を掻き切ってしまいたくなる。樹のことは愛している。けれどだからといってシモンにとってヒジュンが大事ではないわけではない。違うベクトルでヒジュンのことも同じくらい愛している。きっと樹だってそうだろう。
     樹とヒジュンが崖から落ちそうになっていたらシモンは必ずヒジュンの手を取る。おそらく樹だって同じことをする。
     ならば樹と付き合わなければ良かったのか。ALBAの三人で、美しい正三角形を崩さないでいればよかったのだろうか。そうすれば三人で幸せでいられたのだろうか。
     美術室に飾られていた石膏像のような端正な樹の横顔。今はショックで表情が抜け落ちているせいか余計に作り物めいて美しい。けれどシモンが好きなのはそんな人工的な美しさではない。自信満々に見下ろすような笑顔も、好きなものに対して割と一途なところも、それでもって何故なのかわからないけれど意外と自己評価が低いところも全部愛している。モデル様の小綺麗なところ以外の色々な表情も知っているし、ヒジュンにだって見せたことのないだろうあれやこれの表情も知っているし、それを見られる権限も手放したくはない。
    ソファーに投げ出されている冷たい手に、シモンは自分の手を重ねた。電流が走ったかの如くピクリと震えた樹が絶望めいた光のない瞳でシモンを見つめた。
    「……なぁ、別れよ。それで俺、ALBAも辞める」
     よく樹はこんな答えを出す。好きなものに見放される前に自ら手を離す。どちらかを選ばなければならないのならばどちらも選ばない。そうやって諦めてきた樹の綺麗なばかりの思い出の箱に収まってやる気なんてシモンにはない。
    「それで全部丸く収まるって?」
     問いかけに返事はない。昔からそう、口喧嘩でシモンに勝てると思ってはいない樹はいつだって言い返しはしない。ただ物に当たるか、ひたすら沈黙を貫くか。
    「俺は樹と付き合うのも、ヒジュンに認めてもらうのも、ALBAとして成功するのも、全部諦める気ないから」
     ならばシモンはたとえ全てを手離す結果になろうとも好きなものは全部追う。樹が選ばない平等をとるというのならばシモンは選びきる平等をとる。
     そんな宣言をシモンがかっこよくきめたのと、大好きなお兄ちゃん二人が付き合っていて嬉しいとお祝いのパーティグッズとおやつを買いそろえた末っ子がうきうきした顔で家に帰宅したのは同時の事だった。
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