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    nanana

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    nanana

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    しもんくんとえぶりの瞳の色が似ている話。
    初恋拗らせたつきとたつきが大好きなしもんくん。

    #シモ樹
    merchantPine
    ##ハンセム

    月が覗く(シモ樹) 明るめの柔らかなグレーの瞳は、忘れたくても忘れられない初恋の人のそれとよく似ていた。

     その初恋は望みなんて一つもなくて、そもそもどうにかする気もない、拗らせるだけ拗らせて半分どころかほとんど死んでいる初恋をよく似た瞳を持つ男に笑って欲しかっただけだった。シモンは初恋の人に似ている、酔った勢いでそんなことを告げた俺に、シモンは笑いもせずに、見たこともないほどに真剣な眼差しを少し高いところから落とした。そうだ、あの人も身長は高かったなと今このタイミングでもう一つ気が付いてしまった共通点。
    「似てるならさ、俺じゃダメなの?」
     は?と短く喉の奥から思わず漏れた疑問符に被せるようにして予想もしていなかった愛の言葉を耳元で囁いてみせた。
    「俺ね、樹のこと好きだよ。あ、恋愛的な意味でね。だから恋人になってほしいなって、駄目?好きな人に似てるならちょうどいいじゃん、代わりだと思えば」
     得意のマシンガントークでわけのわからないことをまくしたてられて、飲んでいたアルコールは全部どこかへとんでいったはずなのにうまく頭が回らない。本命には無理だから代わりの人に愛してもらおうとするだなんて、そんな酷い話があってたまるものか。
     自分のことを良い人だとも思ったことなんて生まれてこの方一度もなければ、そうなりたいという予定もない。どちらかというと薄情な人間で、人並みの優しさを持ち得ているふりをすることだけが得意だと思っていた。
     そんな自分でもその提案はどうにも色々駄目な部類のものだろうと思う。もし仮に、そう仮にだけれどもシモンが本当に自分のことが好きなのだとすればの話だ。
    「……シモンはそれでいいのか」
    「オッケー、全然問題なーし。俺としては可愛い樹の特別を名乗れる権利がもらえるってだけで超ハッピー」
    「いやおかしいだろ。好きな人に他に好きな人がいます、って言われてそれでも好きでいられんのかよ」
     ――ショックとか、そういうのは受けないのか?
     そう尋ねて顔を見上げた。あの人とよく似た瞳が、まるで満月の下の猫のようにゆっくりと細められていく。
    「別にー。樹が意外と一途なんだーって思って逆に惚れ直しちゃった。そのギャップいいよ、最高だよ。大好き、俺と付き合ってよ」
     ケタケタと笑いながら告げられたそんな言葉に白旗を上げる。もうこの男を理解しようと思うのは諦めて、なおも何かを喋り続けているこの男の唇を塞いでやったのだった。

    ***

     二度とないと思っていた再会はあっけなく訪れた。あの頃日本の片隅の小さな支部にいた男と、一万分の一でしかなかった当時の少年が世界の大舞台でまた出会うなんて誰が予想できただろうか。案の定というよりも当たり前というべきか、こちらのことを覚えていなかった初恋の人は、憎らしいほど一つも変わってはいなかった。
     エレベーターに閉じ込められて失った酸素の分少し息苦しくて触れられていた背中だけがまだ少しだけ熱を持っていて温かい。心配をかけたせいか、オロオロと落ち着かない二人を大丈夫だからと自分たちの部屋に帰らせようとしたけれど一向に引かず、折衷案でシモンだけが部屋に残ったまま。
     ホテルの大きなソファーへ深く腰掛けて深呼吸をする。少しもやがかかったままだった視界がクリアになった。空けておいた隣に半分に水の入ったコップを手にしたシモンが遠慮もなく腰掛ける。
    「本当はこーいう時って、ミルクとかがいいんだろうけど樹飲まないし」
     差し出されたボルヴィックの水を飲み干してコップを目の前のテーブルに置く。そんなつもりはなかったのにそれは静かな部屋に大きく音を響かせた。
    「樹ってさあ、もしかして目が悪い?」
     あれが初恋の人でしょ全然似てないじゃん、そんな風にハハハと隣でシモンは笑い転げた。目じりに浮かんだ涙を白くて長い指がぬぐう。その瞬間視線が絡み合って、どうしてだろうか。告白された時は一つも理解できないと理解することを諦めたこの男のことが突然手に取るようにわかってしまったのだ。
    「俺で代わりになれてるの?」
     絡んだ視線を外さないまま一瞬だけ泣きそうに顔を歪めたシモンに、馬鹿だな、とは言ってやらなかった。誰かの代わりでいいなんて強がりで、それでもいいから一番側にいたくて、軽い言葉ばかり吐くのは重たいと捨てられないようにで、それでもって今代わりにすらなれないのかもしれないと不安になっている。そう思考が繋がれば、あんなにも理解しがたいと思っていたこの男は存外シンプルな思考をしていたのだと知る。
    「うそうそ、じょーだんだってー」
     パッと切り替えられた明るい声色。体を引き寄せられて抱きしめられて、その顔は見ることはできない。
    「俺ってばいい彼氏だと思うよーだから好きに利用してよーお願いだから捨てないで」
     冗談めいて告げられるその言葉がどれだけ本気なのかなんて、うずめられた胸元から響く時計の針よりも早い鼓動が教えてくれていた。
     そんなに心配しなくてもこっちも今更手放せねぇよ、そう伝えるのはもう少し、あの人への気持ちが整理できてからにしよう、そう決めて今は言葉の代わりに背中に回した腕の力を少しだけ強めてやった。
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