朱銀の邂逅あるところに赤い髪の青年がおりました。
青年は困っている人や冒険者ギルドからの依頼で魔物を倒したり、雑用をこなしたりする冒険者でした。お使いのエキスパートと呼ばれた事もあります。
彼は人の役に立つことが好きでした。
だから、なんでもない雑用だって、街を脅かす魔物の討伐だって、彼は嫌な顔ひとつしません。
それが彼の生きがいだったのです。
そんな彼は今日も依頼で各地を飛び回ります。
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彼が砂の都に向かう途中の事でした。彼の背後から、誰かを必死に呼び止める声が聞こえます。
「行くな!……私を、私をっ……置いていかないでくれ……っ!」
懇願するような、悲痛な少女の声でした。
一体どうしたんだろう。声は遠かったですが、こちらに向かってかけられているようにも感じます。
そう思い、ちらりと背後の様子を窺うと、もうすぐ傍まで一人の少女が迫っていました。
側頭部から伸びる青黒い2本の角、所々露出している肌にはドラゴン族のような鱗が見えます。彼を引き止めたのは、アウラ族の少女でした。
さらさらとした銀の髪、特に目を引いたのが血のように紅い瞳と鋭く刺すような金の瞳。その眼には今にも溢れだしそうな程涙が溜められています。
少女は余程急いで走ったのか、息も絶え絶えといった様子で、しかし必死に赤髪の青年の服の裾を握りしめます。
まるで"もう二度と離さない"と言わんばかりに。服の裾にシワが寄ってしまう程に。
「えーっと、もしかして、どこかで会った事が……?」
彼は自身に縋り付く少女にできるだけ当たり障りのないように声をかけます。
彼にはアウラ族の知り合いはいくらかいますが、彼女の正体については皆目見当もつきません。もしかして、どこかで顔を合わせていたのだろうか……そんな事を考えながら。
少女は穴の開きそうな程青年を見つめていましたが、青年が逃げ出さないのを確認すると、そのまま青年を強く抱きしめます。
「やっと、……やっと見つけた……!ずっと……会い、たかった!わたっ、余の……我の……、……ー……!」
溜めていた涙が溢れ出したのでしょう。少女の言葉は最後の方は、嗚咽で意味らしい言葉になっていません。
それでも、少女が何か大切な人と、自分を間違えているのだろうと青年は理解しました。
とりあえず、この子を落ち着かせよう。そう思い、彼は泣きじゃくる少女の背中へ手を伸ばした瞬間、彼を抱きしめている腕の拘束が緩みました。
余程疲れていたのでしょうか、それとも大切な人を見つけた安堵感からか、少女が気を失って地面に倒れそうになるのを青年は咄嗟に支えます。
「……どうしよう」
完全に意識を失っている少女をこのままにしておく選択肢は彼にはありません。モモディさんに頼んでクイックサンドで様子を見てもらおうか。いや、少女の様子を見るに何か訳ありみたいだし……そんな事を考えながら、彼は砂都の方へと歩みを進めます。
「とりあえず、家で目が覚めるまで待とう……」
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少女がまた旅立てるようになるまで。
そう軽く考えている青年の家に居候ができるなんてことは、今の彼は露ほども考えていなかったのでした。