「ねぇねぇ、これ見て!」
ミハエルが雑誌を開いてこちらに見せてきたので、シュミットとエーリッヒはそれを覗き込む。
占い………あるいは心理テストとでも言おうか。イエス、ノーで質問に答えていくといくつかのパターンに分類される、単純な遊びのような記事。
「これやってみてよ!面白いよ?結構当たってると思うんだぁ」
そう言われてシュミットはエーリッヒと顔を見合せた。
シュミットは、占いはさほど信じていない。だがしかし、ミハエルがやってと言うのだから、やらないわけにはいかない。エーリッヒもそれは同じのようだ。
「私はこのタイプのようですね」
「僕はこっちです」
それぞれに誌面を指させば、ミハエルが結果を読み上げる。
「シュミットは、すごく自分に自信があるタイプだね。リーダーシップがあるみたい」
「はは、当たってますね」
エーリッヒが笑った。シュミットは「そうか?」と首を傾げるが、「そうですよ」とエーリッヒは言う。
「じゃあエーリッヒは?エーリッヒはどんな結果が出たんですか?」
シュミットはミハエルに訊ねた。ミハエルは、えーとね、とページを捲った。
「エーリッヒは、意外と熱くて、人に尽くすことができる人。誠実で優しい」
「……まあ、当たってはいますね」
シュミットは顎に手をやり頷いた。
エーリッヒはいまいちピンと来ていない顔をしている。
「それから、ふたりの相性はー……」
そこまで言って、ミハエルはぴたっと口を噤んだ。片眉がぽんと跳ね上がる。
「どうしました?」
シュミットは先を促した。ミハエルは、ふふ、と面白そうに笑って
「ふたりの相性はあまり良くはないみたい。性格的に対立しやすいみたいだよ」
と告げた。
「えぇ?」
「対立……?」
とまたシュミットはエーリッヒと顔を見合わせる。
「あ、でも、僕とはすごく相性いいよ、シュミット♡」
にこーっと笑ってミハエルは言うが、それはシュミットには届かなかった。
「私とエーリッヒの………相性が悪い………?」
シュミットはふと、エーリッヒが無理して自分に合わせてくれているのではないかと不安に襲われてしまう。
エーリッヒは困った顔をして、
「でも、ただの占いでしょう?」
とシュミットを元気づけようとする。
そんな優しさすら、気を遣わせてしまった!と、シュミットにはマイナスに思えてしまった。
「エーリッヒは………どういう人となら、相性が良いんですか………?」
シュミットはくらくらしながら絞り出す。ミハエルはまた視線を雑誌に落とし、えーとねぇ……と読み上げる。
「穏やかで、愛情深く寄り添ってくれるタイプ、かな」
「穏やか……」
「シュミットとは真逆かもね」
「真逆っ…?」
ショックを受けてシュミットは、数歩よろめく。
エーリッヒが咄嗟に肩を支えて、
「シュミット、大丈夫ですか?」
と少し慌てたように声を掛けた。
「あまり気にしないで。あくまでも占いでしょう?」
「エーリッヒ………ああ、そうだな」
シュミットは気を落ち着けようと二、三度大きく息を吸い込んだ。
しかし
「でも、占いは統計学だよ。ある程度の根拠はあるんじゃない?」
とミハエルが口を挟んだ。
「ミハエル!」
エーリッヒが非難するように声を上げる。
シュミットは再びショックを受け、黙り込んで俯いた。悔しさに唇を噛む。自分はエーリッヒに相応しくないのか、と自問するが当然答えは出ない。
「そんなにシュミットを虐めないでください。気にしてるじゃないですか」
エーリッヒに言われ、ミハエルは「ごめーん」と悪びれずに言った。
「さ、シュミット、もう部屋に帰りましょう」
エーリッヒがシュミットの肩を抱いて促す。シュミットはこくりと力なく頷き、目眩を感じながらエーリッヒにエスコートされるがままに歩き出した。
部屋に帰りつくと、ドアが閉まるなりエーリッヒがシュミットを抱き締めた。
「シュミット、僕が愛しているのはあなたですよ。占いなんかより、僕を信じてください」
「エーリッヒ………ああ、もちろんだ。お前の気持ちを疑ったりしてないさ」
シュミットは微笑む。が、どうもやはり気にしていることを隠しきれない顔で。
「相性占いが全てではありませんよ」
とエーリッヒが重ねて慰めた。
シュミットは、「そうだよな」と返したが、声にいつものような自信が漲る感じがなかった。
シュミットは無言で考え込む。
エーリッヒを手放したくない以上、自分が性格を変えるべきなのだろうか、だが性格なんてそう簡単に変わるものではないぞ?と。
「……シュミット。何を考えてるんです?」
エーリッヒに顔を覗き込まれ、シュミットは白状した。
「性格を変えるのって、難しいよな」
「まだそんなことを」
エーリッヒは長い溜息をついて、それからシュミットの肩を掴み、視線を合わせた。
「いいですか?僕が好きなのは、いまの、ありのままのあなたです。気が強くて誇り高いあなたを、なによりも誰よりも美しいと、そう思っているんです」
「エーリッヒ……」
「だから……もう気にしないで。忘れてください、あんな占い」
「そうだな。………よし、忘れたよ」
そう笑ってキスをしてやれば、エーリッヒは眉を下げて口角を上げた。
「僕だって、実は少しだけ気にしているんですよ?」
と、再び抱き締めてきて耳元で小さな声で呟くエーリッヒの頭を撫でてやる。小さな声での心情告白は続いた。
「僕よりミハエルとの方が相性がいいなんて。悔しいですが、でもミハエルには負けませんから」
ははっ、と思わずシュミットは笑った。
「相性が良くなくても、お前を手放すつもりなんかないさ」
言い聞かせた声は、シュミット自身も驚くくらいに甘ったるかった。