好きって言え。練習走行の後、人の居なくなった更衣室。ミハエル達を先に着替えさせて帰らせた後。
シュミットは、ベンチに座るエーリッヒを跨いだ膝立ちで、エーリッヒの顔を覗き込みながらその頬を撫でていた。
「なぁ、エーリッヒ。お前、俺のこと好きだろう?」
問うと、エーリッヒはシュミットを見上げながら
「好きですよ。当たり前でしょう?」
と答えて柔らかく微笑む。
「当たり前の好き?それはどのくらい好きなんだ?」
シュミットは言葉尻を捉えて訊ねた。
「さあ、どのくらいでしょうね。どのくらいって答えたら正解なんです?」
エーリッヒはシュミットを試すようにそう返す。
「……面白くないな。俺のことを好きならキスをしろ」
エーリッヒの唇に指先で触れながら、シュミットは命令した。
「いま?ここで?」
目を見開き、エーリッヒが問いかけた。
「いま。ここで、だ。……できないのか?」
シュミットはエーリッヒに顔を近づけた。じっと覗き込んだ目は、揺れることもなくシュミットを見つめ返してくる。
「できますよ」
エーリッヒはすぐにそう答えて。
唇同士が軽く触れ合い、そして離れた。
「…ほら、ね?」
今度はエーリッヒが挑むようにシュミットを見つめてきた。
シュミットは一瞬ぽわんと頬を染めたものの、しかしすぐにエーリッヒを睨み、
「この程度のこと、キスのうちに入らない」
と強がって返す。
「じゃあ、どんなキスがお好みなんですか?僕に、どうされたい…………?」
今度はエーリッヒがシュミットの頬を撫でた。
すると。
「ちょっと!お前らなにやってんの」
大きな声で咎めるようにそう言われて、ふたりは反射的に顔を上げて声の方を見る。
ドアがいつの間にか開いていて、そこにはエッジとブレットが立っていた。
「…………いいところだったのに」
シュミットは舌打ちをして、エーリッヒの上から退いた。エーリッヒもシュミットの頬を撫でていた手を下ろす。
「いつから居たんです?」
エーリッヒが淡々と、感情のこもらない声で問いかけた。
「邪魔して悪かったな。でも、お前らもちょっとは場所を考えたら?」
答えにはなっていないが、エッジが肩を竦めながらそう返した。ブレットはエッジの隣に立ったままだ。バイザーで表情が読めない。
「ご忠告痛み入る」
シュミットは不満気な顔をしたまま、思っていなさそうな口調でそう言った。
「……帰りましょう、シュミット」
エーリッヒが着替えの入ったバッグを二つ持って立ち上がり、シュミットを視線で促す。
「ああ、そうだな」
シュミットはブレットとエッジの間を通り抜けざまに、わざとブレットに肩をぶつけた。
「おっと…失礼」
それでもブレットは何も言わなかった。
なんだコイツ。とシュミットは不機嫌に不機嫌を重ねて、ぷいと顔を逸らし、足早に宿舎に向けて歩き去った。