シュミットの誕生日。
いつも以上に気合いを入れて、シュミットの好きなものばかりを食卓に並べようと、エーリッヒは張り切っていた。
花束も用意した。
部屋も綺麗に飾り付けたい。
そういうわけで、エーリッヒは朝から忙しく家事に勤しんでいた。
シュミットは、届いたバースデーカードやメッセージを読んだり、プレゼントを確認するのに忙しい。
………………なんだか、違う。
ふとエーリッヒは思った。
大切な日に、お互いが別々のことで忙しくなっている。
それはいやだ。
そう思いシュミットを振り返ると、柔らかい頬笑みを浮かべてバースデーカードを読んでいた。
途端にエーリッヒは強烈な嫉妬に襲われる。
足早にソファまで行き、カードを取り上げた。
「誰からです?………ふぅん。ブレットですか」
よりによって!
シュミットを狙っている恋敵!!!!からの、カードをあんなに嬉しそうに読んでいたなんて!!!!!
エーリッヒは不機嫌を隠そうともせず、低い声で訊ねる。
「ブレットから、バースデープレゼント、届いてるんでしょう?何を貰ったんです?」
「え、あー…………ドッグタグ?」
なんだそれは。
まるでシュミットが自分の所有物だと主張しているようではないか。
首輪でもつけたつもりか?
「エーリッヒ?眉間のシワがすごいぞ……」
「あなたは無防備すぎます」
不機嫌なまま、エーリッヒはソファに乗り上げ、シュミットを両腕の間に閉じ込めた。
ギシリと鳴ったソファの音が生々しく感じた。
「どういう意味だ」
「ブレットはあなたを狙って……あなたに好意を寄せています」
「馬鹿なことを。気の所為だろ、あいつはただの友人でライバルだ」
シュミットはいつになく強く不穏なエーリッヒの視線に、怯んだように声をうわずらせた。
「そういう所が無防備だと。言っています」
エーリッヒは、シュミットのきょとんとした顔に、ああこの人はこんなにも自分に向けられた思いに疎いのか、ならば自分のこの思いも嫉妬も何分の一かしか伝わっていないに違いない………と苦々しくも半ば虚しくも思った。
「なんでそんなに気にするのか分からんが………誰が俺を好きでいようと、俺が愛しているのはお前だからな、エーリッヒ」
シュミットは、真っ直ぐ凛とエーリッヒの目を見つめて唐突にそう告げた。
「!」
「だから、そんなに他のやつを気にするな。それと……………料理もいいが、もう少し俺を構え」
そこでシュミットはふいと視線を落とし、頬を染めて小さな声で
「誕生日なんだから、いつもよりもっといっしょに居たい」
と呟いた。
「あなたって人は!」
エーリッヒはシュミットをぎゅっと抱きしめた。
あまりにも可愛らしく、気持ちが抑えられなくなり、そのままシュミットにキスをする。
「あなたの好きなものを食べさせたくて、張り切っていたんですけどね」
「分かってるさ。でも、後ろ姿ばかり見ているのは寂しい」
「あなただって、カードを読むのに忙しかったくせに」
「暇だったからな。あれは、後回しでもいいだろう?」
シュミットの、体温の上がった紅色の頬に口付けながら、エーリッヒは優しく訊ねた。
「では、いっしょに居ましょうね。……何をしましょうか」
「なんにも。ただ、抱き合って吐息を聴いて体温を感じられればそれで」
「ふふ。叶えてあげますよ。もちろん、これから何年先の誕生日だって」
だって僕はあなたの恋人なのだから。
優越感を感じながら、エーリッヒはブレットのバースデーカードを床に投げやり、そっとソファにシュミットを押し倒した。