その日俺は、面白くもない大人たちの社交の場に出ていた。
父が主催する夜会なので、跡継ぎの俺が不在というのは都合が良くないだろうとその顔を立て、父の傍らでただ愛想を振りまき、顔と名前を覚えてもらう。
こう言ったパーティーは初めてではなかったが、何度参加しても気疲れするものだ。
「シューマッハ殿、今夜も大盛況ですなぁ」
そう言ってひとりの男が父に近づいて来た。父は顔を明るくし、それから深々と礼をした。
「ヴァイツゼッカー様!よくぞお越しくださいました」
父のこの態度を見れば、目の前のこの男性が、シューマッハより位の高い家の人間だとこどもの俺にだってすぐに分かる。だから俺も、父に倣ってゆっくりと頭を下げた。
「息子です」
13909