「……譲れ、エーリッヒ」
「いくらあなたにでも、譲れませんね」
エーリッヒの目がぎらりと光った。
シュミットはチッと舌打ちをする。
「ミハエルに最初におめでとうを言うのは私だ」
「いいえ僕です」
携帯電話を握りしめての攻防。時計の秒針の音が気になる。
あと、数分で、ミハエルの誕生日を迎える─
「ああもう!争っていて他のやつに先を越されるよりましか」
「そうですね……今年も、二人で」
そして、二人は毎年恒例となっている、0時の電話をかけ、声を揃えておめでとうを言う。
「ありがとう、ふたりとも」
嬉しそうなミハエルの声は、その無邪気さは、出会ったころと変わらなかった。