「リーダー、リーダー宛に荷物が届いてますが」
アドルフが、運送会社の伝票を手に、ミハエルに声をかけた。
ヘスラーがその後ろに大きな箱を持って立っている。
「あ!やっと届いたの!間に合わないかと思ったよ」
ミハエルは、シュミットと打ち合わせ中にも関わらず、嬉しそうにソファから立ち上がってヘスラーの元へ足早に近寄った。
「ミハエル!まだ打ち合わせが……」
「いいでしょ、後にしてよ」
ばりばりうるさい音を立てて梱包を解きながら、ミハエルはシュミットの小言をいなす。
「全く……困ったものだ。あなたは、我がアイゼンヴォルフのリーダーなのですよ?そんなことでは困ります」
そう言いつつも何が届いたのか興味を惹かれ、ミハエルの手元を覗き込むシュミット。
しばらく見ていると、中から出てきたのは……
「……ツリー?」
「そう!クリスマスだからね!」
嬉しそうなミハエルの笑顔に、一旦はつり上がったシュミットの眦も思わず下がってしまった。
「ヘスラー、これ組み立てて?」
「はい、リーダー」
「アドルフは僕と一緒に来て。僕ね、部屋にたくさんオーナメント用意してるんだ!持ってこなくちゃ」
「はい!綺麗なツリーにしましょうね!」
アドルフを伴ってミハエルがあっという間に退室すると、シュミットはやれやれ仕方がないひとだな、と溜息をついた。
「お茶を淹れました、休憩にしませんか……って、あれ?いない……」
一軍人数分のティーカップと大きなポットを乗せたトレイを持ち、エーリッヒが姿を現す。
「ミハエルは?」
「部屋にオーナメントを取りに行ったよ。アドルフを連れて」
「成程」
エーリッヒはテーブルにお茶の用意をてきぱき整えながら、ヘスラーの組み立てているツリーをちらりと見る。
「また随分と大きいですね」
「そうか?小さいと思って見ていたが」
「あなたのご実家や、ミハエルのご実家のツリーに比べれば小さいでしょうけれど。この部屋に置くにしては大きすぎるくらいですよ」
エーリッヒは苦笑する。
「上の方なんて、ミハエルでは手が届かないでしょう」
「そうだな」
「よし!できた」
エーリッヒとシュミットが話しているうちに、ヘスラーが組み立てを終えてツリーを立てた。
天井につかえそうなほど立派なツリーだ。
「ただいま!ツリー出来た?」
タイミングよくミハエルが戻ってくる。
その後ろには勿論荷物持ちを務めるアドルフ。
「出来ました、リーダー!」
誇らしげにヘスラーが言えば、ミハエルは目を輝かせて、
「わぁ!すごい!!ありがとうヘスラー!」
とヘスラーに飛びつく。
「じゃあ、皆で飾り付けをしよう!」
わくわくを抑えきれないミハエルに、エーリッヒが穏やかに
「その前に、お茶はいかがですか?せっかく淹れたのに、冷めてしまいます」
と声をかけた。
「そうだね。お茶ありがと、エーリッヒ」
ミハエルがテーブルについたので、シュミットとエーリッヒ、アドルフ、ヘスラーも席に着く。
「ねぇ、アドルフ、ヘスラー、君たちイブの夜は予定を空けておいてね。パーティーをしようよ」
「はい、ぜひしましょう!」
「美味しいものを食べてプレゼント交換をしようね」
「プレゼント交換!良いですね!」
アドルフとヘスラーのふたりは、敬愛するミハエルにパーティーに誘われて嬉しそうだ。
「……ミハエル?私とエーリッヒは?」
声を掛けられなかったシュミットが、訝しげにミハエルに訊ねた。
「君は、エーリッヒとデートなんじゃないの?」
ミハエルはきょとんとして逆に訊き返す。
「デート?いや、そんな予定は……」
「え?だってエーリッヒが僕に、デート向きの良いレストラン、紹介してって……君と行くんだとばかり…」
「エーリッヒが?」
シュミットが首を傾げてエーリッヒを見ると、エーリッヒは片手で顔を覆ってしまっていた。
「どうしたんだ、エーリッヒ?まさか」
「まさかってなんですか?いえ、その、………あなたと過ごしたくて、ちょっと良いレストランの予約、したんです。でも、そんな背伸びしたデート、誘い方が分からなくて………」
「え?」
シュミットはぽわっと頬を染めた。
エーリッヒは、恥ずかしそうに「スマートに出来なくてすみません」と言いながらも、優しくシュミットの赤い頬を撫でた。
「浮気じゃなくて良かったね、シュミット。言っちゃいけないこと言ったかと思って、僕ヒヤヒヤしちゃった」
「エーリッヒは浮気なんてしません!」
「僕は浮気なんてしませんよ!」
シュミットとエーリッヒが上げた声が綺麗に重なり、ミハエルは笑った。
「楽しんでおいで」
「でも、予約はディナーなので。パーティーは昼間にしませんか?それなら、僕とシュミットも参加できます」
「え!いいの!?参加してくれるの!??」
ミハエルはエーリッヒの言葉に、嬉しげに手を胸の高さで合わせた。
「もちろんです。ね、シュミット?」
「ああ、私だってミハエルとパーティーをしたい」
「わぁ!嬉しいな!ありがとう!」
満面の笑みのミハエルを見て、シュミットは柔らかく微笑んだ。
そんなシュミットを、エーリッヒが愛しげに見つめる。
アドルフとヘスラーも、ミハエルが嬉しいのなら当然嬉しかった。
「じゃあ、料理の手配と、プレゼントの用意をしなくちゃ!ああ、忙しくなっちゃうなぁ!」
ミハエルの嬉しそうなセリフに、それぞれに頷く一同であった。