「寒いな」
マフラーに鼻先まで埋まって、シュミットが呟いた。
「すみません、買い物なんかに付き合わせて。早く帰りましょうね」
エーリッヒは慌てて、ふたりで暮らす家に向かおうと、方向転換をする。
「そうじゃない!」
シュミットはそのエーリッヒのコートの背中をがしっと掴んで引き止めた。
「手が冷たいんだ」
むすっとして言うシュミット。
確かにシュミットは今日、手袋をしていない。
「……?ですから、早く帰りましょう、と」
訝しく、エーリッヒは首を傾げた。
「まだ買い物が済んでいないだろう?今日はクリスマスに必要なものを買いに来たんだ、もう今日買っておかないと間に合わない」
シュミットはエーリッヒを見つめて眉を寄せる。
なんだか不機嫌だ。
「では、どうすれば?」
エーリッヒはそっとシュミットの冷たい手を取った。
「それでいいんだ」
ふ、とシュミットは表情を緩めた。
「え?………なんだ、手を繋ぎたかっただけですか」
ふふっとエーリッヒは笑った。
可愛い我儘だ。
「最初からそう言ってくれたら良かったのに」
「別に手を繋ぎたいとは言っていない。手が冷たいから暖めろと言っている」
ツンとしてシュミットはそっぽを向いた。
埋もれたマフラーから覗く耳が赤かったのは、寒さのせいだけでは無いとエーリッヒには分かっている。
「クリスマスプレゼントに、手袋を買ってあげましょうか?暖かいやつを」
揶揄いたくてエーリッヒはわざと意地悪な笑みを浮かべてそう言ったが、シュミットは
「お前の手より暖かい手袋なんて、あるのか?」
とさらりと笑んでみせた。
「まったく。素直じゃないですね」
「うるさいな。今更素直に甘えられるか」
そう言いつつも、シュミットがエーリッヒの手をぎゅと握るので、エーリッヒもシュミットの指に指を絡める形で、冷たい手を握り直した。
「買い物が済んだら、真っ直ぐ家に帰りましょう」
「嫌だ。遠回りしてイルミネーションを見て帰る」
「ほんとにあなたは我儘ですね」
「それも今更だ」
悪戯に笑うシュミットを抱きしめてキスをしたくて、エーリッヒはやっぱり早く家に帰りたかった。