事後の気怠さのなかで、シュミットは自分に緩く抱きついているエーリッヒの胸の温かさに、緩む頬を隠せないまま擦り寄った。
「なぁ、もうすぐお前の誕生日だな。何か欲しいものはあるか?」
なんでも用意してやる。お前が望むものならなんでも、すべて。
そんな重い気持ちを抑えつけ、出来るだけ軽くなんでもないようにエーリッヒに問うと、エーリッヒは、うーん?と小さく唸り……
「欲しいもの………あなたはもう僕のものですから、それ以上に欲しいものなんて浮かびませんね」
なんてふにゃっと笑ってシュミットと変わらないくらい重いことを言う。
シュミットは唇を尖らせ、
「それでは困る。誕生日くらいなにか贈らせてくれ」
とエーリッヒの胸をとんっと叩いた。
「本当に欲しいものがないんですよ。あなたが僕の全てなんですから」
エーリッヒは恥ずかしげもなく甘い声でそう言うと、シュミットの額や頬にキスを落とす。
シュミットはキスを受け止めながら考えた。
そして、ふと思いついたことをそのまま口にする。
「じゃあ、正式に結婚するか」
「え?」
エーリッヒは驚いたようだが、シュミットにはこの思いつきで口にした結婚という贈り物(?)は、この上なく良いひらめきに思えた。
「お前に私の全てをやろう。心も体も、もう既にお前のものだがな」
「シュミット………良いんですか?」
エーリッヒは目を見開いて、シュミットの瞳を見つめてきた。
シュミットは頷く。
「お前が望むならシューマッハの名をやる。でも、私がルーデンドルフになってもいい」
「嬉しいです。……あなたはシューマッハの嫡男だし、正式に僕と結婚なんて、出来ないんじゃないかと思って、なかなかプロポーズ出来ずにいたんです。だけど僕はずっと、あなたと結婚することを夢見ていました」
シュミットは頬を紅潮させるエーリッヒの唇に、そっとキスを贈る。
「お前のそういうところ、嫌いじゃない。だが、私がお前を愛していることは分かっているだろう?もっと傲慢で強引になってもいいんだぞ」
シュミットがそう言うと、エーリッヒはぎゅっとシュミットを抱き締める力を強くして、
「じゃあ、あなたのお父様とお母様に、ご挨拶しに行かないといけませんね」
と少し声を詰まらせて言った。
「どうした?泣きそうな声を出して」
「泣いてしまいますよ、こんなの。嬉しすぎて」
「馬鹿だなぁ」
シュミットは擽ったく笑った。
「私こそ、お前のご両親にきちんと挨拶をしなくては」
「そんなの、大歓迎に決まっています」
「そうか、それは嬉しいな」
言いながらシュミットはエーリッヒの脚に自分の脚を絡めた。
「私をまるごとすべて、貰ってくれ、エーリッヒ」
返事の代わりのキスを受けて、シュミットはうっとりと目を閉じた。