誰にもバレず朝帰りをした、と思ったその日。
「女遊びは程々にしておけよ」
ブレットに呼び出され、苦い顔で言われてエッジは肩を竦めた。
「だってさ、女の子の方から俺と遊びたいって言ってくるんだもん。恥かかせたら悪いじゃん」
「それは優しさとは言わない」
「そうは言うけどさぁ。じゃあリーダーは、なんて言って断ってんの?女の子からの誘い」
エッジはつんつんとブレットの胸をつついて訊く。知りたいのは断り方なんかじゃない。ブレットに言い寄る輩がいるのかどうか、だ。
「俺はそんなにモテる訳じゃない。お前みたいに軽くは無いし、声もかけづらいだろうしな」
「ふーん」
内心でエッジはにんまりした。ライバルになり得そうな存在は居ないようだ。
「ていうかさーぁ?」
エッジは更に畳み掛ける。
「俺が誰と遊ぼうが、リーダーには関係なくない?なんで俺のことそんなに気にすんの?俺のこと好きなの?」
どうなのさ?と下から顔を覗き込んだら、ブレットはかちんと固まってしまった。
「なんでって…………そりゃ…………お前のことを心配して……?」
「疑問形?でも心配してくれてアリガト」
エッジは少しだけ笑って、素早くちゅっとブレットの頬にキスをする。
「なっ………!??」
ブレットは慌てて後退り、エッジから距離を取った。
しかしエッジは一歩踏み込み、ブレットの腰を抱く。
「リーダーも、俺と遊びたくなったら言って?リーダーなら、特別扱いしてやるからさ」
「と、特別扱い……?」
「そそ。恋人とするみたいに、優しく甘く大事に抱いてやるよ」
「っ!揶揄うな!」
ばちん!……エッジの頬が平手で叩かれた。
「ってぇ!」
思わず頬を押えて蹲るエッジを見下ろし、ブレットは大きく肩を上下させている。
「………お前がそこまでふざけた奴だったなんて、がっかりだ」
「ふざけてなんかねぇよ」
エッジは急に真顔になって、立ち上がりブレットを壁際に追い詰めた。
「ふざけてるだろう!俺を抱くだと?恋人みたいに?」
「なんでそんなに怒るの?ジョーダンじゃん?」
「…っ、そんな笑えない冗談、誰彼構わず言うもんじゃない」
「………なら、冗談なんかじゃなくて本気で、リーダーだけに言うのはオーケー?」
ダンッと音を立てて壁に両手を付き、ブレットを腕の間に閉じ込めると、ひゅ、とブレットが息を飲む音が聞こえた。
「俺が本気だったらどうする?本気であんたのこと好きだったら」
「………信じられるか、そんなの」
「もしも、だよ!なに、本気にしてくれたの?」
エッジはへらっと笑ってぱっと離れると、両手を挙げて見せた。
「リーダーが俺のこと好きになってくれるなら、俺、嬉しいんだけどなぁ」
「っっっ、ふざけるな!」
再び振りかぶって繰り出されたブレットの平手打ちは、しかし空を切った。
「キスもしてないのに叩かれるのは勘弁」
平手打ちを避けたエッジがにやりとする。
「お前なぁ……っ」
ブレットが何か言おうとしたのを、エッジは遮ってその口を手で塞ぐ。
「大きい声出さないでくれよ。クールに行こうぜ?」
「っ、!」
ブレットの心を散々掻き乱し、エッジは満足した。
いや、本音はこんなもので満足したくなどない。
しかし今は、恋愛より夢を追うブレットに、自分のことを意識させることが出来れば十分だった。
「話は済んだだろ?俺もう行くね。……次に呼び出されるのは、告白の時がいいな」
ひらひら手を振り、エッジはブレットを置き去りにその場を去った。
口元に笑みが浮かぶのを、我慢できなかった。