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    とわこ

    @towako71

    レツゴ(主にエリシュミ、シュミ右)とかレツゴストDKとか

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    とわこ

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    2024年のフライングバレンタインエリシュミ!
    まだ付き合ってないエリシュミ

    2月初めの、ある日のこと。
    シュミットは雑誌をパラパラと見ながら呟いた。
    「バレンタイン特集?チョコレートの特集ばっかりじゃないか」
    エーリッヒがシュミットにコーヒーを差し出して、微笑んで、
    「日本では、バレンタインには好きな男性にチョコレートを贈るのが一般的なんですって」
    と教えてやる。
    「好きな男性に?」
    「そう。恋人はもちろん、片思いの相手に告白の意味でチョコレートを贈ったりもする、特別な日なんですよ」
    ふぅん、とシュミットはエーリッヒから視線を逸らした。
    片思い。告白。なんて都合のいい。
    今まで2月14日はミハエルの誕生日を祝うのに忙しく、バレンタインを意識したことはない。
    だが今年は違う。
    半年の別離を経て、シュミットはエーリッヒがどんなに自分にとって大切なのか、身に染みて分かった。エーリッヒが隣にいなければ呼吸もままならない。かと言って、隣にエーリッヒがいればドキドキして落ち着かない。
    これを恋と言わずしてなんと言おう?
    今年はエーリッヒにチョコレートを贈ろう。そしてこの気持ちを打ち明けるんだ!
    そう決めて、シュミットはこそりと笑んだ。


    翌日、シュミットは着いてこようとするエーリッヒをなんとか誤魔化し振り切って、チョコレートを買いに出かけた。
    雑誌に載っていた、バレンタインの大規模な催事のあっているデパートへの行き方は事前に調べた。
    が、宿舎の最寄り駅まで来たものの、電車の乗り方が分からない。シュミットは、日本ではおろか母国でも電車に乗ったことがない。
    困って、駅の入口で首を捻って、辺りを見回す。
    ……すると都合の良いことに、TAXIの文字が看板に矢印と共に書かれていた。
    シュミットはぱっと顔を明るくし、すぐさまタクシー乗り場へ向かうと、待っていたタクシーに乗り込み目的地を伝える。流れ出した窓の外の景色を眺めて、ほっと胸を撫で下ろした。
    エーリッヒに告白しようと決意したのに、電車ごときに計画を邪魔されてはたまらない。
    エーリッヒはどんなチョコレートが好きかな。
    知らず微笑んで機嫌よく小さな声で恋の歌を口ずさむシュミットを、タクシーの運転手は安全に目的のデパートまで送り届けてくれた。
    しかし、それからシュミットには更なる試練が襲いかかる。
    催事場は女性でごった返していて、商品を落ち着いて吟味など出来そうもなかった。
    なんでこんなに女子ばかり…………!!!!とシュミットは呆気に取られて、そして思い出した。エーリッヒは言っていた、「好きな男性にチョコレートを贈る」と。つまり女性向けイベントな訳だ。
    そう思うとシュミットは途端にいたたまれなくなる。場違いだ、こんな場所。ピンクや赤のハートの飾りがそこかしこに溢れて、いかにも可愛らしいし、恋人に連れられてきたのでない単独の男性客なんて見当たらない。こんなにぎゅうぎゅうにひしめく女性たちを押しのけて、チョコレートを選ぶなんて、出来ない無理だ!
    シュミットは戦意喪失し、溜息をつきながら帰路に着く。
    帰りのタクシーではずっと頬杖をついて、薄暗くなる外を眺めていた。
    窓硝子に反射して映る自分は、いかにも情けない、しょぼくれた顔をしていて、泣きたいような気持ちに追い討ちを掛けた。


    「ただいま」
    寮の部屋に帰ると、エーリッヒが駆け寄って来てコートを脱がせてくれる。
    「お帰りなさい。どこに行ってたんです?こんな時間まで」
    咎めるような口調のエーリッヒ。心配を掛けたのだろうと思う。
    「ちょっと遠くのデパートまで。……目的は果たせなかったが」
    俯くシュミット。
    エーリッヒは少し沈黙して、
    「……なんだか元気がないですね。温かい飲み物でもいかがですか」
    と優しく言ってくれた。
    「いただくよ」
    シュミットはその優しさに甘えたくて、微笑んで答えるとソファーに座る。はぁー、と重い溜息が出た。
    暫く待つとエーリッヒがマグカップをふたつ持って来て隣に座った。
    「温まってください」
    手渡されたのはホットチョコレートだった。
    「………チョコレート」
    「最近ファンの子からよくチョコレートを貰うので」
    「………………受け取ったのか、チョコレートを」
    「シュミット?」
    異変に気づいたエーリッヒがシュミットの顔を覗き込む。
    シュミットはマグカップを両手で握りしめ、唇を噛んで俯いていた。
    「シュミット………どうしたんですか。今日は変ですよ?一人で出掛けてしまうし。なにかありましたか?」
    「………なんでもないっ!」
    ガン!と音を立ててシュミットはマグカップをソファー前のローテーブルに置いた。
    そして立ち上がると、「ちょっと出てくる!そこにいろ!着いてくるなよ!」とエーリッヒに命じて、コートも着ずに部屋を飛び出した。
    「シュミット!?」
    後に残されたエーリッヒは、ぽかんとして、それから傷ついた顔をした。
    シュミットにこんなふうに拒絶されるなんて……とエーリッヒが頭を抱えたことを、シュミットは知らない。


    それから十数分、あるいはもう少し掛かっただろうか。
    ばんっ!!!!と勢いよく部屋の扉を開け、はぁはぁと息を切らしながら、シュミットは帰ってきた。
    全速力で走って、宿舎の近くのコンビニまで行ってきたシュミットは、冷えきった身体で部屋の真ん中、エーリッヒのいるソファーまでつかつかと歩み寄った。
    「シュミット!どこに行っていたんです!ああ、頬も鼻も赤くなって!寒かったでしょう、コートも着ないで!」
    咎める口調で言いつつ、しかしエーリッヒは泣きそうな情けない顔をしていた。まるでタクシーの窓に映った自分の顔のようだ、とシュミットは少し可笑しくなった。
    「エーリッヒ、これを受け取ってくれ」
    シュミットはエーリッヒの手に、コンビニの袋を押し付ける。
    「コンビニに行ってきたんですか?なんですかこれ………」
    エーリッヒが袋の中を見ると、チョコレート菓子ばかりがたくさん入っていた。
    「………チョコレート」
    「そう。………日本のバレンタインは、好きな男性に告白するのにチョコレートを渡す、だったよな?」
    シュミットは恥ずかしくて早口に言う。
    「本当は、雑誌に載っていたような綺麗なチョコレートを用意したかったんだ。でも、買えなくて。こんなものしか用意できなくて。……様にならないが…………」
    「待ってください、バレンタインのチョコレートを僕に?それって……まるで……いや、でも、」
    エーリッヒはシュミットの顔を正面から見つめる。相変わらず眉の下がった情けない顔をしている。困惑しているようだ。
    「私は、お前が好きだ。だから……私のチョコレートを受け取って欲しいし、他の奴のチョコレートは断って欲しい」
    シュミットは冷えていた頬が熱くなるのを感じながら、ハッキリとエーリッヒを見つめ返して言った。
    「シュミット……!」
    エーリッヒは目を見開く。
    エーリッヒの頬も赤くなる。
    「友人の好きじゃない。恋愛なんだ。お前に恋をしているんだ」
    そこまで言って、シュミットは、はぁと息を吐いた。
    「だから…………お前を、他の奴に取られたくない…」
    言っているうちに視界が潤んで歪んだ。
    瞳を濡らした涙が睫毛に溜まり、頬を転げ落ちたのとどっちが早かったのか。
    シュミットはエーリッヒに抱きしめられていた。
    「シュミット………嬉しい。あなたが僕に恋をしていたなんて」
    ぎゅうっと腕に力を込めたエーリッヒの声がすぐ耳元で聞こえる。エーリッヒの鼓動がうるさいくらいに伝わってきた。
    「エーリッヒ………ドキドキして……?」
    「してます。ずっと好きだったあなたから、告白なんてされて、ドキドキしないなんて無理です」
    「!」
    シュミットはまた頬が熱くなった。今、信じられない言葉を聞いたような。いや、気のせいではないはず、だってエーリッヒはこんなにもドキドキしている。
    「今なんて言った?ずっと私が好きだった?」
    「ええ。ずっと。幼い頃から。あなたがまだ恋なんて知らなかった頃から僕はあなただけを見ていました」
    「エーリッヒ……」
    シュミットはおずおずと両手をエーリッヒの背に回す。そっと抱きしめ返すと、更に強くぎゅうっと抱かれた。
    「エーリッヒ!苦しい…」
    「あ……すみませんっ」
    シュミットが堪らず言うと、エーリッヒは慌てて離れる。シュミットはそれが少し残念だった。離れて欲しかった訳ではない。少し力を緩めて貰えればそれで良かった。
    エーリッヒは赤い顔をして、目を潤ませて、コンビニの袋を大切そうに抱きしめた。
    「あなたからの気持ち、受け取りました。……今日から僕たち、恋人ですね」
    はにかむエーリッヒに、シュミットは照れながら頷き、手を差し出す。
    「これからよろしく、エーリッヒ」
    エーリッヒはその手を握り、そして引っ張り、バランスを崩したシュミットを胸で受け止めて、今度はふんわりと抱いて幸せそうに言った。
    「よろしくお願いします。僕のシュミット」
    僕の、と言われてシュミットは、恥ずかしくて顔をあげられなくなり、エーリッヒの胸に顔を埋めて小さく「………うん」と返した。
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