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    T__yasuda_

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    9月原稿 豆腐屋親子
    熱出したショタ拓海と看病する親父。
    推敲なしの乱文。誤字脱字絶対ある。進捗報告です。

    親父の卵おじや その日は、朝からなんだかおかしかった。
    「……?」
     パジャマを脱ぎながら拓海は首を傾げた。身体がいつもより重く感じる気がするのだ。試しに自分の額に手を当ててみるが特に熱くもない。
     そうこうしているうちにイツキがいつものように「拓海ィ、迎えに来たぞ!」と騒々しくやって来たので、きっと気のせいだと思い直しそのままいつも通りランドセルを背負って登校した……ところまでは良かったのだが。
    「せんせー、保健室行っても、いいですか……」
     二時間目を終えたあたりで急激に悪寒が止まらなくなった。背筋がぞくぞくする。寒い。いや熱い。どっちだろう。頭がひどくぼんやりすることだけは分かる。
    「——藤原くん、あなた熱があるわよ」
    「え……」
     いつもは優しい笑顔の保健室の先生は体温計を一目見て眉を顰めた。ほら、と見せられたそれの水銀は「三十六」の数値を少しばかり超えている。「三十七度六分ね」と初老の教諭は溜め息を吐いて体温計を仕舞うと、拓海をベッドに寝かせた。
    「季節の変わり目だからか最近体調崩してる子が多いのよねぇ。あなたこれからどんどん熱が上がってくるかもしれないから、今日はもう早退しておとなしく休んだ方が良いわ。担任の先生には私から伝えておくから」
    「はい……」
    「じゃあこれからおうちの方に連絡いれるんだけど……お母さんか誰か、おうちにいるかしら」
     その言葉に脳裏に浮かんだのは、タバコを燻らすいつもの後ろ姿。
    「とうちゃん、が」
     拓海の返答に彼女はひとつ頷くと、自身の背後を振り返った。 
    「伊藤さん、悪いけど藤原くんの荷物まとめて持ってきてくれる?」
    「はいっ」
     先生とここまで付き添ってくれたクラスの保健委員の女子のやりとりをカーテン越しに聞きながら、拓海はぼんやりと天井を眺める。
     早退。滅多に体調を崩すことのない自分には縁遠い響きだった。
     ガラ、とドアの閉まる音がして保健室に静寂が訪れる。
    (迎えに来てもらうってことは、店閉めて来なきゃいけないってことだよ、なぁ)
     自分のせいで文太の手を煩わせてしまう。思わず溢した溜め息はシーツに吸い込まれた。
     普通の世間一般的な子供ならば早退して親に迎えに来てもらうことくらい、特段なんとも思わないだろう。
     だが、拓海は違った。父一人、子一人の父子家庭の藤原家は近くに頼りに出来そうな身内もいない。そんな環境からか、なるべく父に迷惑をかけないように──拓海本人にその自覚はなくとも、物心ついた時分より心の奥底にはそんな意識が芽生えていた。
     時計の秒針と加湿器の稼働音、そして校庭から聞こえてくるかすかな歓声。今はきっと体育の授業中なんだろう。それらを聞いていると、自分だけが世界から切り離されたような心細さで胸がずんと重くなる。やっぱり体調が悪いからこんな気持ちになるのだろうか。
     不安から己の身を守るように。薄い布団を頭まで引っ張り上げて固く目を瞑っているうちにどうやらウトウトしてしまっていたらしい。
    「——拓海」
     聞き慣れた声音が鼓膜を震わせる感覚に、水底を揺蕩っていた意識が急速に浮上する。寝起きでぼやける視界の中、声の主を探して視線を彷徨わせると、いつの間にかベッドの脇に文太が立っていた。自宅ではない場所に父親の姿があるというミスマッチな光景に、一瞬自分がどこにいるのか分からなくなる。
     ああ、そうだ。ここは保健室だった。
    「とうちゃん……」
    「帰るぞ」
    「……うん」
     迎えに来てくれた。見慣れた糸目顔に思わずホッとする。不意にじわ、と瞼が熱くなる感覚に襲われ、慌てて瞬きでそれを散らした。
    「あら、藤原くん起きた?」
     仕切りのカーテンを開けると、養護教諭が書類から視線をあげてにこりと微笑んだ。
    「先生、ご連絡ありがとうございました。うちの息子が世話をかけました」
    「いえいえ、お父様がすぐにお迎えに来てくださって安心しました。でも念の為に病院を受診した方が良いかもしれないですね。最近体調を崩している生徒が多いもので……」
     文太は「そうですね」と首肯し、拓海が背負おうとしていたランドセルをひょいと取り上げて自分の肩に引っ掛けた。
    「行くぞ」
    「藤原くんお大事にね」
     先生サヨナラ、と軽く頭を下げれば優しい微笑みで送り出された。
     生徒玄関までの短い道のりがやけに長く感じられる。
    (こんなにとおかったっけ)
     足が鉛のように重くて一歩踏み出すのもしんどい。隣を歩く拓海の歩みが遅いことに気づいた文太は、静かに身を屈めた。
    「ほら」
     え、ときょとんとする拓海を肩越しに振り返って無言で促す。
    (おんぶ?)
    「い、いいよ……歩けるし」
     拓海とて幼くともそれなりに自尊心ってものがある。小学生にもなって親に背負われるのにはやや抵抗があった。首を振る息子に、しかし彼は体勢を崩さない。拓海は小さく唸った。
     どうせ今は授業中なのだ。誰も見ていない。し。誰に言い訳するともなく心の中で呟いて、おずおずとその肩へ手をかける。拓海が自身の背中に体重を乗せたのが分かると、文太は何事もなかったかのように立ち上がり、再び歩き始めた。
    (あったかい……) 
     落ちないよう首に両腕を回してこっそり頬をくっつけてみる。おんぶされるのなんて果たして一体何年ぶりなんだろう。父親の背中は意外にも広く逞しかった。文太は決して筋骨隆々とした男ではないが、洗いざらしの綿Tシャツ越しにしっかりと背筋の存在を感じる。尻の下に回された腕はがっしりしていて安心感があった。片手がランドセルで塞がっていても軽々と小学生男児の体重を支えられるのは、やはり普段の豆腐作りで腕力が鍛えられているからだろうか。
     子供の自分とはまるで違う広くて大きな背中。
     (なんかいい感じに繋ぎの文章入れる)
     白黒ツートンカラーのトレノは、気持ちの良いエキゾーストノートを響かせながら小学校から病院へ向かった。

     病院で「季節の変わり目だからねぇ」と風邪と診断され「お大事に」と複数の粉薬の入った薬袋に受け取り。
     ようやく帰宅し、自室でパジャマに着替えていると文太が水を持って入ってきた。
    「拓海、メシは食えそうか」
     拓海はゆるゆると首を振った。診察のせいで昼食を食べ損ねたが、だるさが勝って食欲がない。胃の中は空っぽなのにヘンな感じだ。寒いのか暑いのかもよく分からない。とりあえず横になりたくて、のそのそと布団に潜り込む。
    「そうか……」
     赤い顔で布団にくるまった息子に文太が小さく息をつく気配、ついで額にひんやりとした重みが乗るのを感じた。この感じは覚えがある、氷嚢だ。心地良い冷たさに思わず吐息を漏らすと、汗でじんわり湿り気を帯びた髪を梳かされた。このまま眠ってしまえと言わんばかりにややかさついた指先が地肌を撫でていく。
     それを感じているうちに拓海は再び眠りに落ちていった。

     不意に漂った鼻腔をくすぐる良い匂い。これはなんの匂いだろう、と夢とうつつの狭間を揺蕩いながら拓海は首を傾げた。なんだかとても良い匂いだ。嗅いでいると腹が減ってくるようなそれにつられて重い瞼を開ける。
    「——拓海、起きてるか」
     枕元に文太が座っていた。こちらを覗き込むようにしている彼の掌には、拓海が普段使っている茶碗が乗っており、そこからなんとも胃袋を刺激する香りがしていた。
    「もう夜だが、メシ食えそうか」
    「……うん」
     布団に潜る前はまだ青かったはずの窓の外は、ほんのり薄暗い色に変わっていた。オレそんなに眠っていたんだ、と内心驚きながら上体を起こす。
     椀の中でほかほかと湯気をたてているのはたまごのおじやだった。淡い黄色の海に緑の小葱が散らされてる。出汁の優しい香りに食欲を刺激され、思わず口の中にじわりと唾液が溢れた。
    (美味しそう)
     体調が悪い時、文太がよく作ってくれるのは大体これか、もしくは唇でも噛み切れるくらい柔らかく煮込まれた薄味の温かいうどんだ。拓海はどちらかというとこの卵おじやの方が好きだった。
     すっかり中身が溶けてぺちゃんこになった氷嚢を回収し、ついでに首の後ろに触れつつ文太が訊ねる。
    「いけそうか?まあこの後薬飲まなきゃいけねぇから、一口だけでもいいから食え」
    「いつもは残すなって言うじゃん……」
    「今日は特別だ」
     まだ熱を持つ細い首に文太は「そう簡単には下がらねぇか……」と口の中で呟くと、匙を手に取った。何をするのだろうと黙って見つめていると、ひと匙分に掬われたおじやが口元に差し出される。いわゆる「あーん」というやつだ。そこまで幼い子供ではないのに。困って文太の顔を見上げたが、表情に変化はない。ごくごく当たり前という顔でスプーンを持っている。
    「ほら」
     口元を匙でつんとつつかれ、拓海は少し逡巡したが、思い切って口をぱかりと開けた。開いたそこへ、ほどよい温度になったおじやが流し込まれる。
     舌先に出汁と醤油の優しい塩味がふわりと広がる。そして米と混ざり合ったトロトロの卵と少し熱が通った小葱の食感。思わずほっとする味だ。数度噛んで飲み込めば、煮込まれてとろみを纏った米がゆっくりと食道を通り過ぎ、胃の底へ落ちていく。優しい味に徐々に食欲が湧いてくる。
    「美味しい」
    「……そうか」
     ぱかり、と口を開けて次を強請る。ぽろりと漏らした感想に頷いた文太は、淡々とした調子でまたひと匙掬い、息子の口元へ運んだ。それをもぐもぐと咀嚼する。美味しい。飲み込んだタイミングを見計らってもう一口。
    (今日くらい、別に良いよね)
     自分は病人なんだし。熱で弱った思考が甘えたいという欲求を助長していることにはそっと目を瞑った。開き直りにも似た気持ちを抱きつつ、文太の手を借りて拓海は食事を続けた。
     あっという間に茶椀の中は空っぽになってしまった。しかし腹は、まだ空きがあるからもっと食わせろと訴えてくる。ちょっと物足りない量だったなと感じているとおかわりの有無を尋ねられ、拓海は大きく頷いた。それに文太はやや驚いた様子だったが「少し待ってろ」とすぐに茶碗に少し冷めたおじやをよそってきた。
    「そんなにがっつくんじゃねえよ、まだ完全に熱下がりきってねえし腹がびっくりすんぞ」
    「だっていっぱい寝たら腹減ったんだもん」
    「ったく……」
    「オレ……父ちゃんの作るこのたまごのお粥、好き」
    「なんだ、唐突に」
     文太の手が止まった。拓海はそれに気づかず言葉を続ける。
    「なんか……安心する味だから」
    「……そうかよ、そりゃ良かった」
     そんだけ食える元気があるならすぐに熱も下がるだろうよ、と文太は短く息を吐いた。糸目の目元が少し赤いように見えて、拓海は咀嚼しながら小首を傾げる。
    (もしかして父ちゃんも風邪ひいたんか?)
     その疑問は音にする前に「おら、これで最後だ」と口へ突っ込まれたおじやと共に胃袋の中へ収められてしまった。
     
    「……父ちゃん。それ、本当に飲まなきゃだめなやつ?」
     拓海は文太の手元を見つめながら恐る恐る確認する。無骨な手の中には真四角のフィルムに包まれた粉状の薬があった。
     「ああ」
     薬袋の注意書きに目を落としつつ、こともなげに頷いた父に思わず小さく呻いてしまう
     。が、文太はどこ吹く風で薬のパッケージをピリピリと破き始める。
     さて、夕食を完食した拓海を待っていたのは、昼間病院で処方された薬だった。今の今まで気がつかなかったが何故か二種類あり、それが彼を震撼させる。
     他の子供同様、拓海は薬嫌いな子供であった。
    (だって苦いし……)
    「医者のセンセイから毎食後必ず飲むようにって言われてるから当たり前だろう。……あ、おい、飲みたくないからって布団に潜り込もうとすんじゃねぇ!」
    「うう……」
    「いいからとっとと飲んじまえ」
     布団から引っ張り出され、手に水の入ったコップを握らされてしまえばもう逃げられない。覚悟を決めて渋々口を開ける。
     
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