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    PnknDol

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    P→百々

    捨てられないためにPからの恋愛感情に応えようと思うももぴとそれが悲しいPの話

    いずれ改稿したい……

    君の幸せを願っている頭が回っていない。そう感じる瞬間だった。
    ディスプレイの端を覗くと時間は22時を過ぎていて、デスクワークにずっと集中していたことを教えてくれる。
    ここらで一息入れた方が良いだろう。虚空に向かって小さく休憩を宣言する。

    「ぴぃちゃん、お疲れさま。飲み物はお茶で良い?」

    するとなぜだろう、とっくに帰ったはずの担当アイドルに返事をされてしまった。

    「百々人、帰ったんじゃなかったのか……?」
    「うん、帰ったよ。さっきまた来たけど」

    なんとも対応に困る答えだ。

    「とりあえず、一息つこう?ソファで待ってて。」

    そしてそんな逡巡も織り込み済みだったのだろう。
    俺は彼のペースにまんまと呑まれてしまっていた。



    「ノンカフェインティーにしたんだ。ぴぃちゃんもたまには胃を休めてね」
    「ああ、ありがとう……。」

    給湯室から帰ってきた彼は、あまりに自然に微笑む。
    未成年がこの時間に事務所にいることは全く自然では無いのだけれども。

    「こんな遅い時間にどうしたんだ?」
    「ぴぃちゃんに会いに来たんだよ。忙しそうにしてたから、絶対まだ居ると思ったんだ」

    俺に会いに。つい数時間前まで一緒にいた俺に会いに?
    額面通りに受け取るには些か不可解な言葉だった。

    「百々人は人をよく見ているな。」

    昼間のレッスンで起きた何らかのミスを気にしている?心当たりは無い。
    家で何か有って避難してきた?こちらは知りようも無い。
    いずれにせよ早合点は禁物だ。

    「そういうことなら、少し休憩に付き合って貰おうかな。もう遅いし、帰りは送っていくから」

    彼との会話、答えはそこにあると考えていた。



    ティーポットは空。カップに残る最後の一滴も先ほど飲み干した。つまるところ、休憩時間の終わりだ。
    何も聞き出せなかった。話運びが悪かったのかもしれない。そもそも話す相手として選ばれるほど信頼されていないのかもしれない。
    であれば、自分にできることは一つ。彼を安全に家まで送り届けることのみだった。

    「話し相手になってくれてありがとう。おかげで随分リフレッシュできたよ。」
    「本当?ぴぃちゃん、もう寂しくない?」

    寂しい、という言葉に引っ掛かる。何かそう感じさせる振る舞いをしてしまったのだろうか。

    「ヤマムラさんと話してたよね。一人でデスクワーク寂しい、って」

    それは確かに口にした言葉だった。聞かれているだなんて思ってもみなかったけれども。

    「もしかして、今日はそのために来てくれたのか……?」

    そうだよ、と肯定されてしまうと恥ずかしさで堪らなくなる。
    自分の軽口が発端とは露知らず、別のところに原因を求めて一人相撲していたとは。恥知らずも良いところである。

    「そうだったのか……。気遣ってくれてありがとう。」
    「ううん。ぴぃちゃんのためならお安い御用だよ。」
    「ただ、百々人の帰りが遅くなったり、夜道を歩かないといけない方法は避けたいな。一緒に考えてくれないか?」

    自分を慰めるための方法を一緒に考えよう、だなんて情けないけれども。
    彼自身を大切にする考え方を、もっと身近にして欲しかった。

    「そうだな。例えば、夜じゃなくて昼にもっと喋れるように時間を作るよ。あとは何が有るかな……」

    「……僕とぴぃちゃんが恋人になるっていうのはどうかな。」

    処理不能。
    そんな話に繋がる文脈は無かったと思うのだが、一体俺はどこで間違えたのだろう。

    「そうすれば、お休みの日ももっと一緒にいられるよね。」
    「……休日に一緒にいるのは、恋人じゃなくてもできるんじゃないか?」
    「でも、ぴぃちゃんは独り身で寂しいんだよね?」

    この子はなんてことを事もなげに言うのだろう。
    本人にそんな話をした覚えはまるで無いが、関係者に惚気を聞かされる機会なんていくらでもある。出所はそのうちの一つだろう。

    「だったら、一緒にいるのは恋人の方が良いんじゃないかな。」

    そんなことをいつだかも分からない雑談の時から考えていたのか。
    自分の身をそのために使うことに何の抵抗もないのか。
    何気なく提案できるほど、自分の浅はかな想いも見透かしているのか。
    どこを取っても恐ろしくて────悲しかった。

    「もしかして、身体の相性が気になるのかな?……試しても良いよ。ぴぃちゃんがしたいならいつだって……」

    しかし怯えている場合ではない。事態は刻一刻と最悪へ向かっているのだ。

    「……しない。百々人がしたくないのにそんなことはしない」
    「僕は、ぴぃちゃんのしたいことがしたいんだよ。」
    「そうじゃないんだ……。そういうことは、誰かに言われたからとかじゃなくて、誰かに反対されてもしたいと思える人として欲しいんだ……」

    綺麗事だった。恋愛なんてもっと軽い気持ちで起こることだし、それが悪いわけでもない。
    そもそも論点を気持ちに持っていくのが間違いで、『未成年に手を出すのは犯罪だから』と断ればそれで良かったのだ。

    でも、そんな考えよりも先に口が動いていた。

    軽い気持ちに翻弄されている百々人なんて、俺が見たくなかったのだ。

    「だから、さ。さっきの言葉は忘れるから、そういうのはちゃんと良い人を見つけた時にしてくれよな」

    百々人は黙ったままだった。

    「せっかく俺のために来てくれたのに、変な空気にしちゃってごめんな。でも、大事なことだからちゃんと考えて欲しいんだ。
    今日はもう遅いから帰ろう。俺と……じゃ、気まずいよな。社長に連絡してみるよ」

    「……キミは、僕に失望した?」

    今日はひたすら虚を衝かれる一日だ。

    「そんなことない。こんなことで百々人を嫌いになったりしないよ。」

    「……そっか。」

    しばしの静寂が場を支配する。

    「……百々人が良ければ、俺が送っていこうか?」

    「……うん。」

    事務所を出る準備をしながら、頭の中はずっと一つの思考に支配されていた。
    将来の彼が振り返ったとき、俺は「大好きなぴぃちゃん」になれているだろうか。
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