コンコン。突然背中のほうから響いた硬い音にフリスクは小さく悲鳴を上げかけて、必死にそれを飲み込んだ。
恐る恐る振り向くと、そこには大きくて見るからに重そうな扉がある。この扉を開けてはいけないとトリエルから厳しく言いつけられているため、日頃は近づくこともない。
ただ今日はたまたまトリエルが外に買い物に出かけている日で、留守番中のフリスクは本を読むことにも絵を描くことにも飽きてしまった。
ここで暮らし始めてからしばらく経つが、隅から隅まで探検しつくしたとは言えない。そう、本当にたまたま、今日は好奇心が勝ってしまったのだ。いつもはチラリと盗み見るだけの階段の下に行ってみようと思い立ってしまうほどに。
口を両手で押さえたままフリスクは慎重に後ずさる。確かに音が聞こえた。
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