主明 二人でする物だから 昼食を終えてのんびりと過ごしている昼下がり。出かける予定もやることも特に無く、俺と明智はソファの上でそれぞれ過ごしていた。俺はスマホでチャットを返し、明智は小説を読み進める。やがてチャットを返し終えた俺は暇になってスマホを起き、明智の手に持つ小説を覗き込んだ。
「それ、面白い?」
「うん」
「読み終わったら貸して」
「うん」
生返事だ。相当集中しているらしい。それほど面白い話なんだろうけど。暫く小説を覗き込んで文字を追っていたが最初から読んでいないので話がわからず、飽きてきた。暇だ。仕方ない。勝手に明智で遊ぶか。俺はそっと明智の首元に唇を寄せると軽くちゅ、とキスを落とす。気づいているのかいないのかわからないが、明智は決して動じなかった。何も言われないのをいいことに、耳にキスしたり頸にキスしたりしているとふーっと息を吐いて明智が本を閉じた。あ、バレた。
「暇なの?」
「ん。邪魔だった?」
「まぁ……でもいいよ。キリが良かったし」
本気で邪魔だったらブチ切れられるので、そこまでではなかったらしい。良かった。明智はこちらを向くと唇にキスをくれた。角度を変えて何度もキスをする。次第にもっと触れたくなってきて、一度唇を離して明智に許可を尋ねようとしたがこちらの思ってることを汲み取ってか逆に聞かれてしまった。
「したい?」
「明智がいいなら」
返事の代わりに両腕を伸ばされる。これはベッドまで運べ、という意味。俺は明智の腕を首に回させるとそのまま膝裏に手を差し込んで持ち上げた。ベッドに連れていくときは大体お姫様抱っこだ。寝室へと向かいベッドの上に明智を横たえる。その上に覆い被さって唇を重ねようと顔を近づけたが、逆に明智から首を伸ばされた。珍しく積極的だ。いつもなら舌を入れるのはこちらからなのに、唇を舐められてこじ開けられる。ちゅくちゅくと水音を大きく立てながら舌を絡ませていたが、どこか違和感を覚えて顔を離した。離されると思っていなかったのか、目を丸くした明智が目に入る。
「なに」
「……」
いつもであれば恥ずかしさが勝つのかここまで積極的に求めることなんてしない。あってもごく稀だし、そういうときは表情でわかる。今日はそんな表情はしていなかった。
「やっぱりいい」
「は?」
怪訝そうに眉を寄せる明智の横に体を倒す。そんな俺を明智は体を起こして覗き込んできた。
「しないの?」
「ん。だって気分じゃないんだろ」
明智は目を一瞬見開いて、気まずそうに目線を逸らした。当たりだ。明智は変なところで気を使うところがある。俺は明智の頰に触れ、ゆっくりと撫でながら言った。
「気分じゃないのに合わせる必要はない。嫌なときは嫌って言ってくれ。それで怒ったりなんかしないから」
「……でも、蓮はしたいんだろ」
まあ確かに少しはしたい。でも明智が乗り気じゃないのに一人だけ楽しむのは違う。セックスは二人でするものだし。
「別にめちゃくちゃしたいわけじゃない。明智がその気だったらしようかなって程度だった。だからいい」
こちらの真意を探るような目線を向ける明智に苦笑しながら抱き寄せる。嘘なんて吐いていないのに。
「せっかくベッド来たから昼寝しよう。なんだか眠くなってきた」
腕の中の温さに眠気を誘われて欠伸が出る。明智の髪を撫でながら微睡んでいると、腕の中から小さく「……ありがとう」と聞こえた。
同居から同棲に変わって日が浅い俺たちだけど、お互いが取り繕うことなく遠慮せず過ごせる日が来ると良いなと思いつつ、返事の代わりにぎゅっと抱きしめて意識を夢の中へと飛ばした。