ショタバステ 膝の上でじっとこちらを見つめてくる、大きくて紅い瞳。頰はふっくらしていて、いつもの美しくも睨みつけてくるような顔ではない。腕の中には、甘い茶髪で秋頃に見慣れた白い王子然とした衣装を身に纏った子どもがいた。話は少し前に遡る。
年明けから再び復活したメメントスで、いつものように怪チャンの依頼をこなしていた。ターゲットを改心させ、次のターゲットを探しに移動をしようとしたら妙なシャドウ達と戦闘になってしまったのだ。連戦の疲れも多少あり、一瞬の隙を見せてしまった。攻撃が避けきれない、というところでクロウが庇って代わりに攻撃を受けることとなってしまったのだ。
「クロウ!」
すぐさまペルソナを召喚してスキルを放つ。相手も体力が少なかったのかそのまま黒い霧となって消えた。吹き飛ばされたクロウに駆け寄り、回復スキルをかけようとペルソナを付け替えながら声をかけた。
「悪い、油断した。クロウ、大丈夫、か……」
しかし目に入ってきた状況に、言葉が尻すぼみになってしまった。そこにいたのはダークスーツを身に纏った男ではなく、ぺたりと床に座り込み大きな瞳をこちらに向ける男の子だった。
「えっ……クロ、ウ?」
髪や瞳の色、それに顔立ちからクロウであることは間違いなかった。しかし、かなり身体が縮んでいる。見た目、大体小学校低学年くらいだろうか。クロウは幼い姿になってしまっていた。
「ここ、どこ……?」
不安そうに辺りを見渡す小さなクロウに心臓を掴まれた。可愛い。可愛すぎる。しかし早く治さないと現実にどんな影響が出るかわからない。メシアライザーで治るだろうか、と考えているとナビの鋭い声が飛んできた。
「ジョーカー!後ろ!」
バッと振り返るとまだ残っていたシャドウがこちらに攻撃を仕掛けてきていた。クロウを抱き抱え、その場から飛び退いた。
「ペルソナッ!」
クロウを腕に抱えたままペルソナを召喚してシャドウを消滅させる。これで全部のシャドウはいなくなったようだった。ふぅ、と息を吐いて腕の中のクロウを気遣った。
「大丈夫か?怪我とか……」
声をかけ目を合わせると、クロウはそれはもうキラキラとした目でこちらを見ていた。そして小さく「かっこいー……」と呟いていた。
「ジョーカー、大丈夫?クロウは……えっ?!」
パンサーが駆け寄ってきて俺が抱っこしている子を見て声を上げる。後からついてきた仲間たちも次々と驚きの声を上げ、そして女性陣は声を揃えて黄色い声をあげていた。
「か、可愛い〜〜!!」
とりあえず待合室でクロウの状態を確認することになった。見たことはないがバステだろうと思いメシアライザーで回復を試みるも、何ら変わりはなくナビが分析してみてもよくわからないという結果になってしまった。
「ん〜お手上げだ。なんっにもわからん。バステなんだろうけど、ちょっと特殊だな……」
「現実に戻ったら、クロウの姿も戻ったりしないかな?」
ノワールの言葉に、試してみる価値はあると全員が頷いた。もう一人ターゲットがいたが、今日のところは一先ず帰還した方が良いだろう。戻るか、と待合室から移動しかけたとき「それにしても」とクイーンが口を開いた。
「ジョーカーの側から離れないわね」
そう。小さなクロウはずっと俺の側から離れない。なんなら待合室にいる間、ずっと膝の上に乗って俺にしがみついている。
「一番初めにジョーカーを見たから離れなかったりするのかな?」
「いやそんな雛とかじゃねぇんだから……」
ノワールが首を傾げるのに対し、呆れたようにスカルが突っ込む。そんな二人を少し緊張したように見ていたクロウにパンサーが近づく。
「怪盗服はこっちなんだね」
「子どもの姿だと恨みはまだ無いのかもしれない。だからこっちの服装なんだろうな」
「なるほどねー。歳、どこまで戻ってるんだろう。ね、お名前と歳って言えるかな」
パンサーはしゃがみ、クロウと視線を合わせながらにこやかに尋ねた。クロウは一度俺の顔を見てから少し恥ずかしそうに答えた。
「……あけちごろう、四歳、です」
「四歳!可愛い〜」
大人数に囲まれるのが慣れないのか、答えた後はすぐに顔を背けてしまった。幼い頃は意外と照れ屋だったのかもしれない。今のやりとりが本人の記憶に残るかは定かではないが、とりあえず戻った時にダメージが少ないようそろそろ元に戻してやらないと。後に被害を受けるのは俺な気がする。
「よし、現実に戻ろう」
膝の上から離れようとしないクロウを抱き上げて俺たちは現実に帰還すべく入り口へと向かった。
現実に戻り、バステを受けた本人が戻っているか確認する。が、いつもの明智の姿はなく先程いた小さな明智が俺の足元でキョロキョロと周りを見渡していた。