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    kochi

    主にフェリリシ

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    kochi

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    フェリリシ。クリスマスもとい白鷺祭に向けたけど、フラグが立たない

    フラグ消失 鷲獅子戦が終われば、秋は終わりを迎える。吹き抜ける風の冷たさは冬将軍の来訪を知らせ、一年の終わりを思い立たせる。
     波乱で謎な出来事が多く、憂いは残るものの星振の節には舞踏会が開かれる。社交界の予行演習と言わんばかりの催しだが、訓練や実戦と離れた行事故に楽しみにしている者は多い。お誂え向きに女神の塔の伝説もあり、生徒にとってはまさに一大イベント!
     誰が誰々を誘ったとか、誰を誘いたいなどの浮かれた話が増える頃合い。色々と気になるところだが……。

    「あんたって、舞踏会に参加するんですか?」
    「しない」

     はい、終わり! ときめきのフラグは瞬く間に折れて、イベントは終了した!
     ……なのだが、問いかけたリシテアはさほど気にせず、手にしたお菓子をパクリと口にする。授業前の甘いものは頭の働きを良くする! と言うかのように、肌寒くなった中庭にて摂取していった。

    (ふふふ……予想通りですね!)

     本日は余った卵白を使った菓子だが、渡した相手のフェリクスには甘く感じるようで一個で満足していた。

    「苦手そうですね、踊りとか」
    「なら話が早い。この浮ついた雰囲気は気に食わん」
    「わたしも心から楽しむ気にはなれませんけど、白鷺杯は少し楽しみですよ」

     短い会話に集約されていた。前節にトマシュによるルミール村での悲劇があったばかりなので、二人とも楽しむ気概は薄い。
     それとは別に、フェリクスが踊りだの歌だのの催しに興味がないのは誰が見ても明らかだ。強制でもないのだから、彼がわざわざ参列する理由はない。その確認が取れて、リシテアはホッとする! ……参加しないでくれた方が、彼女としては好都合で安心できる。万が一の可能性を視野に入れていたので、ようやく胸の支えが取れたというもの。

    「ふふっ! ふふふ……」
    「……何故、笑ってる?」
    「き、気のせいですよ! そう、お菓子の時間は至福の時ですから!」
    「はあ……」

     そのわりには気味の悪い笑い方だが……と、思うも藪蛇になったら面倒なので、フェリクスは口は噤んだ。リシテアの機嫌が良いのなら気にすることでもない、そういうことにしよう!

    「ふぅ〜! 寒いですね。中庭でのお菓子時間も辛くなってきました」
    「そうか?」
    「寒いですよ。……ああ、あんたはファーガス出身でしたね。これくらいの寒波なら平気なんですか?」
    「水が凍らないうちはまだ楽だな」

     厚手のインナーのリシテアに対して、フェリクスは普段とあまり変わらなかった。じっとしてると寒さを感じるが、鍛錬してれば暑くなるので軽装の方がちょうど良い。
     寒さに強い彼を羨ましく思いながら、リシテアは冷えてきた手を吐息で温める。

    「うーん……そろそろマフラーを出しましょうか」
    「寒いのか?」
    「わたしはレスターでも帝国寄りですから」

     ファーガスとは反対側の南側に位置するアドラステア帝国の国境沿いがコーデリア領に当たる。帝国ほどではないが、温暖で穏やかな気候育ちのリシテアにはガルグ=マクでの寒波は堪えた。

    「ガルグ=マクでは滅多に雪が降らないようですよ。舞踏会の時に降れば、浪漫溢れるのですが!」
    「……そうか?」
    「そういうものです!」

     解せないフェリクス。リシテアに限らず、雪が降らない国の者は、雪に対して妙な憧れを持ちやすい……。

    「い、一度くらい見てみたいですね。ファ、ファーガスの雪を!」

     胸の鼓動を弾ませながら、彼女なりにアプローチを仕掛けた! ささやかで可愛らしいものだが、仕掛けられた当人は気付かず、むしろ不可解だった。

    「…………何故」
    「えっ? 何故って、雪を見てみたくて……」
    「わざわざ見るものじゃない。冬になんか訪れたら最悪何ヶ月も逗留する羽目になる。遭難事故も珍しくない。このくらいで寒がるならやめておけ。せめて、別の季節にしろ」

     真面目に断られてしまった……珍しく饒舌に。
     理路整然に理由を告げられて、リシテアはぽかんとする。

    「えっ、雪が見たいです、から……」
    「二時間で飽きる。一日でも滞在すれば、もう見たくなくなる」
    「そ、そんな!? 浪漫も欠片もないじゃないですか!」
    「雪に浪漫を求めるな……」

     現実的なことを告げられて、遠回しなアプローチはズタズタになってしまう。リシテアの心がしゅんと萎む……。その様子を見ても当然フェリクスは気付かず、さらに理解不能に陥っていった。

    「そんなに見たいか?」
    「いえ、そういうわけでは……雪は口実というか嘘ではないですが、真実でもないような」
    「何を言ってる」

     ますます眉間の皺が深くなっていくフェリクス。頑張ったのに見事に玉砕で、梨の礫になってしまったリシテアは少々ぶー垂れたくなった。

    「もう! ちょっとは夢を見させてください!」
    「現実を見た方が良いだろ」
    「いいじゃないですか! わたしだって大きい雪だるまとか、かまくらとか憧れてるんですよ」
    「……言っておくが、一人で作ろうと思うなよ」

     絵本や物語で見たキラキラした冬の情景を思い浮かべるリシテアに、つい現実的なメスを入れてしまう。さすが寒国のファーガス、直に雪に接する者とでは感性が合わない!
     ……断っておくが、フェリクスは意地悪でなく、本当に親切で忠告している。

    「わざわざ風邪を引きに行かなくて良いだろ」
    「そこまで言いますか。あっ、じゃあ春先とかどうですか!」
    「溶けた雪の道は想像以上だ、悪い方で。……どうしてもなら、まだ真冬の方が気候が読みやすいか」
    「いえ、そこまでは……」
    「それと、お前は肉が足りないから付けてからの方が良い」
    「ちょっと?! 女性に対して、何てこと言うんですか!」

     雪山などで遭難した際は体脂肪が多い方が生還率が高い、という理屈で伝えたのだが、女性には大変失礼である!
     フェリクスなりに考えてくれているのが伝わったが、予想外の方向に話が流れてしまって微妙だ……。しかし、他国のことを──彼の国について聞くとリシテアの胸が高鳴った。口では悪く言ってるが、嫌悪しているように思えなかった。

    「その、大変なんですね。ファーガスの冬は」
    「一年の半分は冬だからな」
    「なるほど。そういえば、青獅子学級のみんな、夏は元気がなかったですよね。やっぱり暑いのは苦手なんですか?」
    「……今、話すことでもないだろ」

     バツが悪くなったので、フェリクスは濁した。
     寒国出身のため暑さへの耐性は薄いが、鍛錬は真面目にこなしていたので慣れてないだけかもしれない、とリシテアは推測する。夏バテしてた覚えはない……たぶん。

    「それなら、夏は氷菓子で攻めた方が良かったですね」
    「菓子にする必要はない」
    「あら、夏は糖分も不足しがちなんですよ! 補給は大事ですから!」
    「……水の方がありがたいが」

     お菓子に拘らなくて良いと強く思うが、言ったら厄介なのは明白。……真夏の翠雨の節は色々とゴタゴタしてたから夏バテしてる暇もなかったな、とフェリクスは振り返る。

    「あっ! それなら、わたしは夏のファーガスは過ごしやすそうですね!」
    「たぶんな。冬でなければ歓迎する」
    「雪が見たかったのですが、避暑するには良いかもしれませんね。うちは南寄りなので、けっこう暑いんですよ」

     コーデリア領での夏模様を聞くだけで、フェリクスはげんなりした。ほぼ反対に位置する国同士の話は新鮮で、互いに興味が湧いてきていた。

    「行けたら良いですね」
    「来るなら言え」
    「そうします。……あっ、もう時間ですので」

     無情にも時間は流れ、チャイムが鳴るとリシテアはベンチから立ち上がって、次の教室へと向かったいった。喋りながらでもお菓子を食べる手は止まってなかったので、フェリクスが残したメレンゲ菓子を含めて綺麗に無くなっていた。

    「……食い過ぎじゃないのか」

     立つ鳥跡を濁さず……。ぺろりと食べてた彼女を思い出して、フェリクスは胃がもたれる錯覚を起こしていた。


     別れた後、教室に入って授業の準備をしている時に、リシテアはふと気付いた。

    「あれ……? もしかして、誘われた?!」

     一瞬ドキッとしたが、『いや、フェリクスですから……』と、すぐに冷静になった。
     きっと他意はない。あういうこと言って、度々こちらを惑わしてくるくせに当人に自覚なしなんだから! と、これまでの経験と知恵がリシテアの囃し立てる鼓動を鎮めていった。

    「……気にするだけ時間の無駄ですね」

     そう結論付けて、勉学の方へ意識を向けた。真相はこの時点では不明だが、リシテアも自らフラグを折っていることに気付かないでいた……。

     舞踏会はスルーとなったが、当人達は問題ないよう。
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