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    kochi

    主にフェリリシ

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    kochi

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    よくわからん

     眠い……疲れた……。
     その時の彼の頭は、睡眠欲と疲労感で埋め尽くされていた。突然の天候不良により、吹雪の中での帰還を果たした際は、覚束ない足取りで馬を厩所に連れて行っていた。
     突如と現れる雪嵐はファーガスでは珍しくないが、慣れた者でも油断はできない。雪と寒波によって体力を奪われ、道を間違えないよう確認しながら進んだため、フェリクスは疲労困憊だった。
     気を張っていたせいか、安全地帯に入った途端、体が一気に重くなった気がする……鉛と化した足を引き摺るように、フェリクスは宵闇の城内を彷徨う。
     城の中とはいえ、ファーガスの冬であれば冷たい空気が漂う。おかげで意識は保たれるが、眠気は募るばかり。

    (眠い……城の中で凍死したら洒落にならん……)

     睡魔と闘う最中、自室への闇の廊下に浮かぶ白き存在が彼の瞳に映り込む。時刻は月が頂点に届く頃合いで、こんな時間まで起きていたのか? と、意識と体が引っ張られる。
     いつもなら主人の帰りを待っていたと判断できたが、生憎今は平常ではなかった。暖を求めるかのように、足は彼女の方へと向かっていってしまう。


     真っ暗闇の中の城内……灯りはまばらで、闇の帳が下りていた。月の光を照らす窓は、風になった雪が飛び交っているため役目を果たさずにいる。

    「大丈夫だと思いますが……」

     予定では今日の帰還だったが、この吹雪では明日以降になるかもしれない。
     冬のファーガスは気候不良が多く、予期せぬ遅延はよくあった。外は吹雪いているが、猛吹雪という方ではない。言ってしまえば、よくある天候でフェリクスにとっては慣れたものだ。
     しかし、そうとわかっていても無事かどうか心配であり、新たな一報がないかとソワソワしてしまうのが心情で、待つ者は落ち着かない。そんな感じで、寝ようにも寝れないでいたリシテアは寝室で悶々としていた。
     そして、ついに待ち侘びていた轟音が響く。城門の開場を聞きつけて、すぐに向かおうと寝室の扉を開けた。
     その先は───漆黒に染まった暗路だった。

    「っ……ひぃっ!」

     思わず、悲鳴を上げてしまう。
     真冬の冷気が漂う暗闇の通路は、冷たく仄暗い印象を強くさせていた。まるで、冥府の底へと通じているような……と、怪綺談の一節を思い起こさせるほど。

    「き、気のせいです!」

     魔法で明かりを灯し、襲いくる雑念を振り払って歩みを進める。今はフェリクスの事が気掛かりだ、おばけなんて気にしていられない!
     ファーガスに伝わる怪綺談は外だし、霜の巨人だか現れる大吹雪ってほどではない。気のせいだ、大丈夫だ、と頭の中で安心の呪文を唱えながら、のろのろとリシテアは足を動かしていった。

    「お、おばけなんて……いないんですから」

     でも、そういえば侍女から城の離れの幽霊話を聞いたな。あれはたしか、離れの掃除をしていた使用人が足を滑らせて……と、いらない情報を思い出してしまいそうになり、頭をブンブン振って消し去る。何故か、こんな時ほど怖い話が浮かんでしまう……リシテアの顔色は青白くなっていくばかり。
     絶対に行きたくない冷たくて暗い廊下へと歩みを進めるのは、ひとえにフェリクスの安否を知りたい愛故なのだが──怖いものは怖い! 歴史ある古城の暗闇は、恐怖を助長させてしまうのは言うもがな!
     集中力が途切れて魔法の灯りが点滅する度に、リシテアは気を入れ直していった。

    「だ……だ、大丈夫です! こ、こわくなんてありません……」

     ゆっくりと慎重に恐る恐ると、城下扉の方へ向かう。若干涙目になって、歩みを進めている時に───それは突然襲ってきた。

    「っ……っ、いっ!?」

     言葉のない悲鳴を上げる。背後から何かに抱き止められて、リシテアの心臓は飛び出しながら停止しかけた。
     顔も頭も真っ白になり、放心して身動きが取れず、今にも魂が抜け出ようとしている。

    「……まだ、起きてたのか」

     …………え? ハッと我に帰り、リシテアは現実に呼び戻される。聞き間違えるはずがない声音は、恐怖で埋め尽くされた心に光を差す。
     鳩尾辺りに回っている腕、背後にのしかかる重い身体は、ちゃんと熱があるから幽霊ではない。血の通った人間のもので、肩に落ちてるのは闇と混ざった髪の毛だと知る。

    「フェ……フェリクス、ですか?」

     安堵と不安を込めて問いかける。聞かなくとも誰だかわかるが、飛び跳ねてる感情は確認したがっていた。
     返事はなかったが、眠たそうな吐息が耳に入り、彼の状況を察せれた。吹雪の中にいたのだから疲れて当然だ。

    「おかえりなさい。ゆっくり休みましょう」

     今にも寝そうな呼吸とリシテアの肩にのしかかる重量は心地良く、寒くて暗い廊下の闇が薄まった気がした。
     恐怖で破裂しそうなリシテアの心臓は、今は凪の如く落ち着いていた。今、この場にいる現実が、何よりの喜びと安心を齎してくれる。
     それに……こんな時でないと、フェリクスは廊下で大胆なことはしてこない。意識が朧げな時の特権は嬉しくも、彼女の心臓に悪いのだが……たまになら歓迎する。

    「此処は廊下ですから部屋に行きましょう」
    「…………ああ」

     眠たげに答えるフェリクスは、普段より幼く感じた。うつらうつらと舟を漕ぐ彼の手を引いて、寝室へと連れ歩く。迷わないように、離れて行かないように。
     ──暗闇に見えた白き光には抗えない。光を求めて彷徨う子羊のように引き寄せられてしまう。
     甘いお菓子に誘われる子どものように。
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