物音畳張りの部屋だが、足音はよく聞こえる。
深夜にさりっぎしっと足音がして、少しすると布が落ちる音、シュッと着付ける音、そして最後に布団へと潜り込む気配を感じてから目を開けた。
そして、先ほどまで平べったく誰もいなかった布団に盛り上がりがあるのを視認して、そちらを見る。
(生きてる)
寝息なのだろう、微かに上下する掛け布団を見ながら思考する。三日月と同室になってから、彼がこうして任務から帰るたびにルーティンになってしまっている行動がこれだった。
(不健全なんだろうな、精神的に)
息をしている事を確認するのが日課なんて、自分自身でもどうかと鶴丸国永は思うが、どうしても確認してしまうのだ。
三日月宗近が、息をして動いて、任務をして傷ついて、そして流れる血を、苦悶の顔を見ながら安心する自分がいる事を鶴丸国永は認めてはいるが受け入れることはなかなか難しかった。
そもそも鶴丸は睡眠が浅いのか、小さな音でも起きる性分である。そうして起きてしまったとき、三日月の布団が上下するのを見ると不思議に安心するのだ。
(赤ん坊は鼓動を聞かせると眠くなるなんて言うが)
なんて取り留めのない事を考えて居れば、瞼が合わさる。そうして寝入って朝を迎えるのだが、深夜に帰った三日月は起きない、それは当然で鶴丸は身支度をして部屋を出ていく、それが刀剣男士鶴丸国永にとっての毎日だった。
同室と言えども、三日月宗近とは言葉も挨拶も交わしたことは無かった。似た顕現時期だったので、自動的に同室にはなったが、部隊も任務も別に用意されてそれにお互いが忙殺されている。
他の刀が、同室に悩みを聞いてもらったとか茶を飲んだとかそんな話を聞くと何とも言えない気持ちにはなる。
そうしてまた鶴丸が寝入る時刻になった、時計を見ながら長期の遠征に出た部隊はいつ頃帰るだろうか?そんなことを考えながら布団を敷いておく、自分もそうだが任務で身体も心も疲弊すると、布団なんぞ敷くのも億劫なのでそこは同期のよしみでやっていた。
誰もいない暗闇におやすみを言いながら寝ていると、またさりっと物音がした。起きては居るが、本日もいつもの物音を立てて、布団へ入ってしばらくして目を開けて横を向いた時だ。
いつもは背を向けて寝入っている三日月が、こちらを見ているので驚いて声も出せなかった。
「鶴丸」
「ん」
起きたと言えども寝起きなので声を出すのも一歩遅れて居ると、三日月は先程帰ってきたせいか声に疲労を滲ませながらも言う。
「いつも、布団ありがとうな」
「気にするな」
「あと、そなた起きてるならばたまには声でもかけろ」
「む」
それだけ言うと、俺とておやすみくらいはお前に言いたいぞと今度はそっぽ向いてしまうので、鶴丸国永はそれは面と向かって言えよと心の中で思いつつも、おやすみと声に出して言ったのだ。