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    SS置き場
    ある程度溜まったら支部に置きます

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    POIPOI 129

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    ミラ→→(←)プト/チェスする二人/糖度中

    ※相変わらずねつ造です。
    チェスの部分は薄目で見て下さい。
    色々大丈夫な方だけどうぞ。

    個人的OT前のミラ→→(←)プト

    Tactics:Decoy 「意外だな」
     「それってどういう意味だよ、おっさん」
     「様々な意味が含まれてる。……それくらいはお前でもキチンと理解出来るだろう? 小僧」
     「あー、もう、お前って本気で可愛げねぇよな」
     「可愛げがある相手をお求めなら俺は帰るが」
     「……こんな真夜中に? 一人で? 俺は生まれてからずっとソラス育ちの完璧なソラスボーイだが、酒の入った状態でこの時間に一人でノコノコお外に遊びに行く奴の末路ってのは嫌って程に知ってる。そりゃあもう、パソコンばっかり弄ってただろうギークなクリプちゃんには聞かせられないくらいの……そう、そ……なんだったか? まぁ、いい。とにかく、財布やら身の回りの物を全部差し出しても無事に生きて帰れるかは五分五分ってくらいの危険過ぎる世界なんだよ、分かるか?」
     「うるさい」
     「出たよ! その『うるさい』ってやつ! すぐそれ言うよなぁお前。一日の中で俺にそう言うノルマ回数でも決まってんのか? それよりもお前も自分のやつ並べろよ、俺に全部やらせるんじゃねぇ」
     「『暇だからチェスでもやろう』なんて言っていきなり持ち出してきたのはお前のくせに」
     不満げなのを隠すつもりもない俺の声に押し流されるように、溶けかけた氷の混ざったウィスキーが注がれたグラスをカウンターに置いたクリプトがようやく並んで座っている互いの間にあるチェス盤の上へと視線を向けた。
     この口の悪い男が俺の誘いを受けてパラダイスラウンジに来るのは、大体五回に一回程度の回数しかない。
     そうして閉店時間を過ぎてまでこの場所に居るのは、なんと今回が二回目だった。
     ひどく貴重な時間を噛み締めるように、掴んだ黒のルークを端に並べて、次はどんな話を投げようかと考えながら木製のケースに収まっているナイトへと手を伸ばす。

     クリプトと一対一で話をしたいと思っていても、俺が他の客やレジェンド達と話をしている間にクリプトが煙のように姿を消してしまうのはいつもの事だった。
     俺に何も言わずに、スタッフやパスに代金だけを渡して帰ってしまうクリプトを責めるのは簡単だったが、別に金を払っていないワケでも二人で飲もうと約束をしているのでもない。
     それに初めはこの店にすらなかなか来てくれなかったクリプトが、こうして店に来てくれるようになっただけでも大きな進歩なのだと自分を納得させる。
     「いいだろ、たまには。ちょっとは相手しろよ。……お前いっつもすぐ帰っちまうんだし」
     「なんだよ、俺が黙って帰るのがそんなに寂しかったのか?」
     「バカ言え。もっと吹っ掛けてやろうと思ってるだけだ」
     「悪徳店主だな」
     「なーに、安心しろって、今回はお前が食った料理に毒は入れてない。だが次回からは分からないけどな」
     冗談めかしてそう言えば、大して面白くもなさそうにクリプトが鼻を鳴らす。
     このやり取りが本気ではないのは互いにわかっていた。けれど、俺の方は気が付かれない程度に本音を混ぜてはいる。
     そうでもしなければ、面と向かってすぐに帰ってしまうことを咎められないからだ。
     結局のところ、俺は何ひとつだって納得していないのだと改めて自覚するが、それをまた心の奥底へと沈め落とす。

     主に自分の物置として使っている部屋から懐かしさに満ちたチェス盤を持ってきたのは気まぐれだった。
     そうでもしなければ、頑固さの塊であり素直さのまるでないこの男は、今にも俺の制止を振り切って店から出て行ってしまいそうな雰囲気をしていたからだ。
     コイツの意識を惹く為に、必死にコイツが好みなのだろう料理や酒を僅かな変化から探っている自分は、とっくにクリプトという人間に好意を抱いているのを自覚していた。
     なぜ? なんて考える暇もなく、その感情は当然みたいな顔をして俺の心の中心に居座っている。
     人を好きになった理由を見つけるのは難しくて、どちらかといえば、嫌いになる理由を見つける方が簡単だと思う。
     だから最初は苦手だと思っていたクリプトをそう思うようになった理由はいくらでも思いつくのに、それがいつしか"好き"という感情に変化していたタイミングはいつからだったのかは思い出せない。
     でも、その理由を考える前に、体が、脳が、クリプトの姿を追ってしまうのだから仕方がなかった。

     せっせと駒を並べながらも、クリプトへとさりげなく視線を送る。
     木で出来た駒の質感を確かめるように幾つかの駒の表面をサッと撫でた手付きは優しい。
     多分このチェスセットがそこまで新しい物ではない割に、綺麗な事に気が付いたからかもしれない。
     それなのに相変わらず無表情な横顔に勝手に目を向けてしまったのを無理矢理戻すように、視線をずらす。
     手を見ている分には違和感を与えないだろうが、顔をマジマジと見ているのを知られてしまったらほんのりと酔いが回っている頭では上手い言い訳が思い付きそうに無かったからだ。

     またもや下げた視線の先、ドローンを操作する用の埋め込み式デバイスなのか、常に纏っている手の甲以外に指先にも取り付けられた黒い金属がカウンター上に吊り下げているライトの明かりによってぼんやりと光って見えた。
     そんな指先に掴まれた白く丸い帽子に斜めの切れ込みが入った形をしたビショップの駒も、つるりとした側面を光らせる。
     この理解しがたい男は、その駒に似てどこか僧侶めいた空気を滲ませているように思えて、いくつもある駒の中から一番最初にそれを迷いなく拾い上げた辺りが可笑しくなってしまう。
     特に丸みを帯びた後頭部も、似ている。
     けれどそれを言ったら最後、俺の命は外に出なくともここで消える可能性が高いので、頭に浮かんだ考えを掻き消すように無心で手を動かす。
     そして持っていた最後の黒いポーンを盤上に置けば、すぐさま俺をこき使うのに慣れ切った声がした。
     「おい、お前こそ手が止まってるぞ」
     「はぁ? 何が見えてるんだよ。もう俺は並べ終わってる」
     「じゃあさっさと手伝えよ」
     「お前さぁ、そういうところだぞ、誤解されやすいの」
     パラダイスラウンジという素晴らしい場所を提供しているのも、今、クリプトが飲んでいる酒も、そうしてさっきまでバクバクと食っていた料理だって全部俺が用意してやってるっていうのに。
     それでもこうして飲みの誘いにコイツが応じてくれて、今日は随分と機嫌がいいのかチェスにまで付き合ってくれるようになって、それだけでやっぱり俺は、まぁ良いか、という気分になってしまうのだから困ったものだと思う。
     だから結局はクリプトの言葉を受け入れて白い駒を拾い上げてはチェス盤の上へと整列させていく。
     コツ、コツ、といつもならば絶対に聞こえないような微かな音が耳に入ってくるのを聴きながら、目の前で俺が掴まなかった駒を並べていくクリプトの指先に迷いはない。
     時たまテレビゲームのような事をドローンを使ってやっているコイツはゲーム全般が嫌いではないだろうと踏んでいたのだが、間違いでは無かったようだ。
     チェスは俺達が産まれるよりもずっと昔からあるボードゲームの一つではあるが、今はオンライン対戦がメインで、直接チェス盤を使って戦うのは珍しい。
     もしかしてコイツも子供の頃にやった思い出があるのだろうかと聞けもしない疑問が頭をよぎった。
     他の奴になら、うまい具合に色々な質問を投げ掛けたり、そいつの過去を知ろうと動くのに躊躇いは無いだろう。
     でも、どこまでも秘密主義なクリプトにそれを問えばコイツは俺から離れていくような気がして言えない。
     好きだからこそ、聞きたい話はたくさんあるのに聞けない事が増えていく感覚は息苦しさとジクリとした重い熱を胸へと溜め込ませた。

     そっと息を吐き出して、酔いだけではない熱を冷ますように緩い呼吸を繰り返す。
     他の客たちはみんな帰ってしまって、ラムヤもパスもそれぞれの部屋へと引きこもってしまっていた。
     ふと見上げた壁にある時計は午前三時を指していて、いくら常に人の消える事のない星であっても静かになる時はある。
     そして、客の目を楽しませる為に普段は着けているデコイのスイッチを切って、かかっている音楽の音量を絞ったのは、クリプトの声をよく聴きたかったからだった。
     そうでもしなければこの男は、どれだけ聞き漏らさないように努力している俺でも気が付かないような些細な言葉を零すから。

     ついにチェス盤の上で綺麗に向かい合った白と黒の駒たちを眺める。
     クリプトは俺がこういうボードゲームをするのが意外だと言ったが、俺にしてみたら随分と馴染みのある代物だった。
     外で思い切り運動をするのも、音楽をやるのも俺は得意じゃなくて、どちらかといえば家にいる方が楽しかった。
     そうして研究の合間に母さんと遊ぶといえば、ボードゲームをするのが多かったのは、俺に色々考える力をつけて欲しいと内心で母さんが考えてくれていたんだろうと大人になった今ならよく分かる。
     それにこういう遊びなら、体力やセンスが無くたって兄貴達とある程度は渡り合えた。

     「誤解されたとしたって、それ以上の結果を残せばいい」
     「……それで嫌な思いをするのはお前なのに?」
     駒を眺めていた俺の前で、キングの前にあるポーンを二マス先の中央へと進ませたクリプトが不意にそう言う。
     それを抑える為に自分も同じ位置にポーンを向き合わせるように置きなおす。
     今度は右下ルーク横のナイトを中央へと進ませたクリプトの手を真似するように、自分もナイトを前へと進ませる。
     カツリ、と俺が音を立てて駒を置いたタイミングで、キング横のビショップへと手を伸ばしたクリプトはそれを最初に置いたポーンの一マス開けた先へと進ませてからカウンターに置かれたままだったグラスへと手を伸ばした。
     中に入っている氷によって表面に浮いた水滴を気にもせずグラスを傾けたクリプトの目が俺を見つめる。
     いつもならば黒く鋭さのあるその瞳は仄かに酔っているのか、白目と目の縁がほんのりと赤い。
     「俺が、そういう風に周りから扱われるのは嫌なのか? お前は」
     「質問を質問で返すなって教わらなかったのかよクリーピー。ただ、そうだな……お前だけじゃないさ、……俺の目の前で少なくとも"そういう人間"じゃない奴が誤解されるのは好きじゃないし、フェアでもないと思ってる」
     「ふぅん。……コミュニケーション能力と考え方の違いだな」
     俺が迷いながらナイトと並べるように置いたクイーン前のポーンを見ながら、グラスを片手にクリプトがそう言って今度は左下のナイトを中央へと進めてくる。
     もうクリプト側はキャスリング出来るだろうに、敢えてさらにもう一体のナイトを食い込ませてくる所が意外と好戦的なクリプトらしい。

     自分の横に置いたままのグラスを取れば、やはりそれはひやりとしながらも濡れていた。
     だが唇に流し込んだウィスキーはぬるくなりつつあって、これが終わったら自分とクリプトの新しいドリンクを作ってやらなければと、ぼんやりと考えては、クリプトの言葉の意味を理解しようと試みる。
     俺が思った事をベラベラと喋ってしまう気質があるように、目の前のクリプトという人間は話す言葉が難解な時がある。
     最初は言葉通りに受け取ってはいちいち棘のある奴だと思っていたが、その言葉の端々に読み解かなければ気が付かない優しさのようなものを感じるようになったのはいつからだっただろう。
     まさに【クリプト】という名に相応しい、分かりにくい男だと思ったものだ。
     「それってさぁ、褒めてんの」
     クイーン横のビショップを進め、クリプトの置いた右下ナイトの斜め前に置く。
     これで相手のナイトが動けばこちらのビショップがクイーンを取れる位置にいる事になる。
     チェスにおいてクイーンの駒はキングに次いで有能な駒だ。それを易々と取られるのはクリプトも望まないだろう。
     さぁ、どう動く? と俺が思ったのを裏切るように、クリプトの濡れていない方の指先がビショップ前のナイトを動かしてこちらの最初に配置したポーンを捕らえた。
     思わず声を出しそうになるのを抑え、すぐさまクイーンを回収する。
     まさかこの男がこんな単純なミスをするだろうかと顔をあげれば、こちらを見返してくるクリプトとまたもや視線が絡む。
     「お前は、"良い人間"というカテゴリーに入るだろう。それを褒めていると捉えるかはお前次第だ」
     「素直にあの時助けて貰って嬉しかったって言えよ……って、あ!お前!」
     スッと伸びた指が左にあるビショップを掴んでチェックをかけてくる。
     クイーンを犠牲にしてわざとこちらの意識を反らしたのだというのに気が付いた時にはもう遅い。
     仕方なくキングを一歩前に進めれば、あっさりと待ち構えていたナイトがさらに中央へと進軍してくる。
     やられたと気が付いた時にはもう遅い。どんなゲームでもそれは一緒だった。

     「チェックメイトだな」
     キザったらしくそう言いながらクリプトが残っていたウィスキーを飲み干すのを見つつ、仕込まれた罠に嵌められた事に苛立ち半分のまま同じくグラスの中身を飲み干す。
     口の中に落ちる薄まった琥珀色の液体が喉を潤すのを感じながら、子供じみていると思いつつもムッとした顔をしてしまうのを我慢できない。
     「なんだよ今の。ズルだろ、わざとクイーン取らせにきやがって」
     「ズルってなんだ、簡単に騙されるお前が悪いんだろう。こちらはルールに乗っ取っているんだから」
     「そうだけどよぉ……くそー……」
     俺の情けない言葉に、ふふ、と急に微笑んだクリプトの瞳に宿る柔らかさにドキリとする。
     コースターにグラスを置いたクリプトの横顔の輪郭が薄ぼんやりとした明かりの中で淡く光を帯びていた。
     どこか無防備なその姿を壊したくなくて、声をかけるか迷う。
     すると俺が何かを言う前にグラスの中のもう殆ど残っていない氷を揺らしたクリプトが小さな声で囁くのが聞こえた。
     「……昔、全く同じ事を妹に言われた」
     『妹』という単語を耳が拾った瞬間、胸の奥がざわざわと嫌に騒ぎ立てては潤した筈の喉が渇く。
     いきなり目の前に差し出された新たな情報に、どういう返答をするべきかを頭をフル回転させて考える。
     お前って妹がいるんだな、どんな子なんだ? 何歳差? お前に似ているのか? そんな話なんか今まで一回も聞いた事無かったよな? ……なぁ、その妹って子は今どこで何をしてる?
     言いたい疑問は山ほど出てきたのに、それらを発しかけた唇を噛んで止めた。

     コイツは俺を、信頼して言ったワケじゃない。
     単純に酔っていて、懐かしい記憶を思い出して、無意識にそんな話が洩れただけなのだろう。
     クリプトは俺を自分の話ばかりしていて、相手の話なんてろくすっぽ聞いちゃいない奴だと考えているのは分かっていた。
     でも、そうだからこそ、こうして俺の前でだけは張りつめた顔をほんの僅か緩める時があった。
     自分が求められている立ち位置を、俺は昔からよく知っている。
     そうしてそれを演じられるくらいには気が遣える男だと自負していた。
     「へぇ……、俺も兄貴が居たけどよくやられて泣かされたもんだ。やっぱり兄貴っていうのはどこもそういうもんなんだな。んで、俺は勝てるまで再戦を挑むんだよ。ってことで、もう一回やろうぜ! 次は負けねぇ」
     こちらの返事に、グラスへと向けていた顔を上げたクリプトと視線が絡む。
     自分の発言を深く掘り下げられない事に安心しているのか、それとも自分の言った言葉にそこまで意識が向かないくらいに酔っているのかわからないその黒い瞳は何よりも俺の気持ちをかき乱す。
     この返事で間違っていないだろうか、クリプトにとって傍に置いておいても良いと思える存在のままで居たい。
     「……俺に利益がない」
     俺の言葉に眉をわざとらしく顰めたクリプトに心臓が速度を増す。
     でもそれは俺の気持ちを透視したワケでは無いのはちゃんとわかっているから、上手く仮面を被ったまま、求められる人間で居るように努力する。
     「はぁ? あんなに色々食わせてやったのに?! ったく……仕方ねぇな、新しい追加ドリンクに、……うーん、そうだな……俺のお気に入りメーカーのアイスクリームも出してきてやる。こんな時間に食べるラムチョコレートアイスは頬っぺたが落ちるくらいに最高な味がするんだぜ」
     「アイスクリームなんていつ食べたって同じだろうが。……まぁ良いだろう。どちらにしても次も俺が勝つ」
     「本当にわかってねぇなー。食べて驚くなよ、じいさん。なぁ、酒はおまかせでいいよな? じゃあ俺がカクテル作り終えるまでに二回戦目が出来るようにちゃーんとセットしておいてくれよ」
     素早く座っていた背の高いスツールから立ち上がり、空になったグラスを両方手に取るとカウンターの中へと向かう。
     ふと背後に一度視線を向ければ、どこか物寂しげな顔をして動かしたチェスの駒を元の位置へと戻しているクリプトの姿が見えた。
     いつか、その寂しさを、抱えている苦しみの端っこを、俺が少しだけでも知る時がきたなら。
     俺はきっとどんなやり方を使っても、絶対にお前の役にたってみせるのに。

     やはり言えない言葉の代わりに、流しに飲み終わったグラスを二つ入れ、新たにグラス用の冷蔵庫に冷やしておいたカクテルグラスを二つ手に取る。
     真夜中に食べる甘い甘いチョコレートアイスに合うスッキリとした後味の物、そうして、クリプトがまた飲みたいと気に入ってくれるような酒がいい。
     寂しげなその顔を、こんなに美味い物があるのかと一瞬驚くような表情をする顔に塗り替えてやりたいのはいつもの事だった。
     頭の中にあるレシピを開いて、これにしようと決めた物に必要な酒を背後の棚から引っ張り出す。
     そうして、全てのボトルを目の前へと並べると、何もかもを均等に混ぜる事の出来る持ち慣れたシェーカーへと手を伸ばした。
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