及川は、扉を勢いよく開けた。
パラパラと雨が降っているが、空には晴れ間が見えている。
(なんだっけ、こういうの。天気雨……)
朝の風が冷たい。もう振り返らないのだと決めたはずなのに、ストーブのぬくもりと石油のにおいと、幼馴染に触れた感触がまだ胸に沁みている。
(そうだ、涙雨。今日の俺にぴったりじゃん)
両親は空港まで送ると言ってくれたのだが、平日だからいいよと断り、両親には家を出る前に「ありがとう」と伝えた。泣かせてしまうのも、泣いてしまうのも避けたかったので、それだけ言って出てきた。
本当は岩泉には来て欲しかったのだが、昨日あまり眠れなかったようで、珍しく朝方まで部屋の電気が点いているのが見えていた。
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