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    ogata

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    ogata

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    サルベージビクフリ。

    #ビクトール
    viktor.
    #フリック
    flick
    #ビクフリ
    bicufri

    よいゆめを こいつはいつもほとんど一直線上に足を踏み出すような歩き方をする。
     戦闘時ですら、その動きの大きさに比べて不思議なくらいに足音が小さい。
     青年の鍛え抜いた身体は、アルコールが入った時でさえ気の抜けた歩き方をすることを許さないのだ。
     それはこの男が特殊な訓練を受けていることを意味するものであり、フリックの足付きを見るたび、我流で戦闘を身につけてきた自分との違いを改めて感じる。

     だから部屋に戻って来るまでのフリックの足取りは、まったくしっかりとしたものだった。
     そういうところは、多少飲んだぐらいでは全然変わらない。

     酒場から部屋に戻って、あとはもう寝るだけだなとシャツを脱いでいると、フリックがじっとこちらを注視していたことに気がついた。

    「ん、どうした?」

     だいたいフリックはあまり酔わない。
     ザルのように強いというわけでもないから羽目をはずせば酔い潰れることもあるが、いつもはその日の体調に合わせて、楽しめる程度に自分の適量を嗜むのだという。
     酒の飲み方は、戦士の村に居る頃まわりの大人達に教わったそうだ。
     曰く、いつ何時でも戦闘への準備を怠らないことは戦士としての努めなんだとか。

     フリックはこちらに向かって、静かに歩いてきた。
     そして呆気にとられた俺の前でぴたりと立ち止まる。

    「あ、の……フリック」
    「なんだ」

     でも今こいつは多分酔っている。俺にはそうとしか考えられない。

    「俺の顔に何かついてるのか?」

     フリックは俺の両腕を掴んで、目の前で青い瞳をじっと見開いていた。

    「何も。みてるだけだ。悪いか」
    「いや……近い、な、と思って」

     というか、近すぎてお前の顔がぼやけるぐらいなんだが。
     これは、息が吹き掛かるほどの距離というやつだぞ、フリック。

     さらに驚いたことには、フリックは俺の言葉を華麗にスルーした後、何も言わずに頭を俺の肩にのせ、背に両腕を回して力一杯締めつけた。

     ……これは、抱きついてるんじゃ、ないよな?
     ないない。
     フリックが自分からこんなコミュニケーションを取りたがるなんて、あるわけがない。
     第一、腕の力が半端じゃない。本気で俺を絞め殺す気か、こいつ。

     相棒だと信じていた青年の、先の行動が全く読めない。
     まあ酔っぱらいなんてこんなもんか。

     しばらく両肘から下の所在に迷って彷徨わせた後、仕方なくフリックの後ろ腰のあたりをぽんぽんと軽く叩いてやると、フリックは次第に大人しく力を抜いていった。

     もうここはこいつを諫めて寝台に連れて行き、さっさと寝かしつけるのが俺の役目なのだろう。
     わかってるぜ。だけどな。

     力を抜いて身体を預けてくるフリックの温度は想像以上に気持ちよくて、押し留めたり振り払ったりは出来ず、かと言って抱き返すこともできず、俺は両腕を下ろしたまま直立不動になっていた。

     ……想像以上に、ってのは言葉のあやだ。想像したことなんかないからな。

    「気分悪いのか?」
    「そんなに飲んでない」
    「じゃあ何で」
    「だから何が」

     返答だけは素早く明瞭。なんて面倒臭い酔っぱらいだ。
     困り果てた俺は、フリックをそうっと移動させて寝台に座らせ、自分も隣に腰掛けた。
     フリックは隣でやはり俺に体重を預けるようにもたれ掛かっている。
     しかし寝ているわけではないらしい。横目で確認してみると、フリックの瞳は両方とも緩く開いていた。視点が合わないわけでもなく、ただぼうっとしているようだ。

    「眠くないのか」

     突然フリックが話しかけてきたので、少し肩がびくりと震えてしまった。
     フリックは構わず続けた。

    「明日早いんだぜ」
    「つーか、お前が眠いんじゃないのか?いや俺もそろそろ寝るけど」
    「ああ、ちょっと眠いかな」

     そうだろうそうだろう。早く寝ろ。寝てくれ。
     眠い酔っぱらいは寝るべきなんだ。

    「じゃあ、そろそろ寝るか」
    「ああ」

     フリックはきちんとブーツを脱いで、二人で座っていた彼の寝台に転がると、立ち上がろうとした俺を背中から引き倒した上、転がってしまった俺の身体の上にズドンとのしかかった。

    「なっ……!」

     どっさりと覆い被さった青年の身体は、細身だが上背もあり、全身筋肉なのでそれなりに重い。
     全然動こうとしないので顔を覗こうと頭だけ横を向いてみると、フリックは頭を枕にうずめている。息苦しくないのだろうか。身体を横にしたところで急に眠くなったのかも知れないが、それにしたってこんなにわけのわからないフリックは初めてだ。

    「ビクトール」

     耳元で囁かれてまた身体が強張る。
     それにしても俺は、酔っぱらいのフリック相手に何でこんなに緊張させられてるんだろうな。

    「あ、ああ……何だよ」
    「寝よう」
    「うん、寝るけどな、ちょっと重いからこっちの横に寝てくれねぇか?」
    「ごちゃごちゃうるさいな。寝るんだろ」

     俺の言うことなんか聞きやしねえのはいつものことだが、そのままフリックはぺろりと俺の口元を舐めた後、その唇を重ねた。

     ……なん……だと……?

     硬直している俺などおかまいなしに、もぐもぐと俺の唇を甘噛みすると、青年は俺の口内を舐め始めた。なんだか夢中らしく、もう俺に話す隙すら与えてくれない。

     それでもこういうのは、まだまともな思考力の残っている俺が止めてやるべきだ。
     そんなことはわかってんだよ。ああ。言われなくたってよ。

     でもなんだかな、俺も酔っていたってことかもしれないが、フリックの温くて柔らかなそれはとても甘いというか、非常に気持ちのいいものだった。

     というか、悪いフリック、俺もおかしくなってきたのかもしれない。

     なんだか流されるのも悪くないような気がして、俺はフリックの背に両腕を回し、そのキスに応じることにした。







     目覚めると、俺とフリックは布団の中で仲良く抱き合いながら素っ裸で眠っていた。
     そうっと腕を抜いて、フリックを起こさないように寝台から抜け出る。
     よく見ると、フリックにも俺にも全身に鬱血したような跡が残っていた。

     あらゆる意味で頭が痛い。

     途中から記憶が曖昧なんだが、あのまま結局寝ちまったのか?
     あーでも、どこまでやったんだか覚えてねぇ。
     まあ……なんだ、酔った勢いってのは恐ろしいな。

     昨日椅子に掛けてあったシャツを着て、水差しにそのまま口をつけ一気に飲み干す。
     落ち着いたところで、取り敢えずそろそろ起こした方がいいか、と振り向くと、フリックは何故か既に起き出して、裸足のまま目の前に立っていた。

    「うおぁぁあ!!!」
    「ああビクトール、おはよう。珍しいな、先に起きてたのかよ」
    「あ、ああ……うん、おはよ」

     何暢気におはようとか言ってんだとか、幾ら足音が小さいからって裸足だからって気配がないにも程があるとか、物申したいことが勢いよく喉まで出かかったが、飲み込んだ。
    それより何より今は、先に問いただしておきたいことがある。

    「なあ、フリック。昨日お前、珍しく酔ってたな」
    「は?」
    「何だよ、記憶ねぇのか?お前俺に……」

     フリックはシャツを着ながら、ああ、と答えた。

    「そんなに飲んでないって言っただろ」


     ……え?

     まさか、フリック。

     お前、素面だったのか?


    「お前、結構可愛いとこあるな」


     平然と言い放ったフリックの言葉に、俺は昨日の記憶を必死で反芻しはじめた。
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