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    hariyama_jigoku

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    hariyama_jigoku

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    鍾タル小説。途中。先生に片想いしてるモブ視点。鍾タル全然出てこないです。

    ##原神

    凄惨なエトランゼ1 息を切らして、夜道を駆ける。日は既にとっぷり暮れていて、人の姿も疎らな璃月港の細道を急いでいた。
     目的はただのお使いである。それも、ただの書簡を届けるだけのもので、わざわざ商家の娘がこんな時間に供もつけずに家を飛び出すほどの用事ではない。けれど、自分にとってはこれ以上ない口実であった。
     荷物を大事に抱え直しながら、頭の中に想い人の顔を浮かべる。―――往生堂の鍾離様。端正なお顔立ちはさることながら、博識で璃月について知らぬことはないと語る者を多く知っていた。噂では武芸にも達者であるらしい。
     皆が嫌がる往生堂への使いを引き受けているのも、偏に鍾離と親しくなるためであった。それでもかの御仁の反応は芳しくない。勿論素っ気ない対応をされたという訳ではないし、彼自身は極めて紳士的だ。だが、それがどうにも一線を引いているように感じられる。それに―――。
    「本当に……。なんなのですか、あの方は」
     娘の口から、つい悪態めいたものが転がり落ちた。はっとして己を律するように首を横に振る。こんな風にはしたない口を聞くところを、万が一にでも鍾離の前で見せるわけにはいかない。それでも、ふつふつと心中に苛立ちが湧いてくるのである。
     橙の髪をした、若い男。名は知らないし、興味もなかった。鍾離が「公子殿」と呼んでいるから、他国の良い身分の人なのだろうとは予想している。そこまでは良いのだが、気に入らないのが大抵こちらが鍾離とどうにか出かけられないかと訪ねる度に、食事の約束がある、買い物に付き合う、旅人の―――会ったことはないが度々話に出てくるので恨めしく思っている―――探索に付き合うだのと事あるごとに鍾離を連れて行ってしまうのだ。おかげで、最初に商家として取引を締結する場での会食以来、満足に二人で話す機会もない。
     それに、大人しくついて行ってしまう鍾離も鍾離である。あんな風に振り回されることを良しとしてしまうから、相手もつけ上がるのだ。弱みでも握られていたらどうしよう、と想像の中での「公子殿」があくどい顔で笑う。
     それを振り払うように、踏み出す足に力を込める。だからこそ、明日でもいい用事をこうやって引き受けたのだ。夕食の時間はとっくに過ぎているし、あの人もいないはずである。それに、従者がいればゆっくりと話もできない。早く辿り着いて鍾離と言葉を交わせれば、あの隙のない表情の緩む時を垣間見られるかもしれない。
     石畳を鳴らす娘の顔は、暗がりでなければ誰しもが一目で恋のそれだと分かるものであった。それが、はたと曇る。早く往生堂へ向かいたいと細道を通ったのが仇となったか、曲がり角の先に人の声が聞こえた。
     通り抜けようかとも思ったが、声の様子はどうやら言い争っているようである。引き返すことも頭を過ったが、きっと時間がかかるだろう。どうにかいなくなってくれないかと、暗がりに息を潜めた。
    「どうするったって逃げるしかないだろう! こっちには金がないんだ!」
    「そんなこと言ったって逃げられるわけないだろう、どうにか金を用立てて返すしかない。いずれ見つかって命を代わりに取り立てられるに決まってる!」
     つい、荒々しい声に耳を澄ませてしまう。どうやら金のことで争っているらしいが、夜逃げでもするのだろうか。
     どうにもいなくなる様子はなく、大人しく引き返した方がいいだろうかと、その場を離れるためにそっと足を踏み出した。
    「―――きゃっ!」
     びりっと嫌な音が響く。服の袖を引っかけてしまったようで、ほつれた袖を咄嗟に腕ごと胸に抱いた。
    「誰だッ!」
     敵意を滲ませた声と共に、足音が駆けてくる。咄嗟に走り出したものの、壁際に追い詰められるように二人の男に退路を塞がれた。
    「銀行のやつらじゃないようだな」
    「こんな夜更けに一人か、そこそこにいいとこの出のようだが……」
     品定めをするような視線が、娘の頭から爪先までを舐めるように這う。嫌悪感に襲われ、きっと男たちを睨みつけた。
    「ただ通りがかっただけです、退きなさい!」
     指先は震えていたが、虚勢を保つために声を張り上げる。誰か来てくれればいいのだが、時間帯とこの場所だ。可能性は低いだろう。
     ひそひそと何かを話し合っている男たちは、すんなり通してくれるつもりはないらしい。冷や汗が背を伝う。どうにかしなければ、という考えだけが逸る思考を焦らせていく。
    「―――そいつは確かに良さそうだ。気立てのいい女なら
    、借金の足しになるかもしれん」
     漏れ聞こえた言葉に、耳を疑った。今更ながらやはり従者を付けておけばよかったと、家の者の制止が身に染みる。絶望からじわりと滲んだ涙が、視界をゆっくりと歪ませた。抱えた荷物が、手から滑り落ちる。
    「岩王帝君様、どうかお助けを……」
     喉を震わせて、祈るように手を組んだ。きつく目を瞑ると、濡れた感触が頬を伝う。

    「へえ、君は死んだ神に祈るんだね」
     聞き覚えのある声に、耳を疑う。思わず瞼を持ち上げると、動揺する男たちの背後に影が揺らめいた。
    「やっと見つけたよ。北国銀行から逃げ仰せようなんて、随分と肝が据わってるみたいだけど」
     暗闇から姿を現したのは、夕焼けのような髪の男である。睥睨するように光のない目が、男たちを移した。
    「ひっ!? なんで執行官がここに……」
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    hariyama_jigoku

    DONE鋭百小説(鋭百々)。付き合ってていちゃついてる二人。互いの無意識の話。
    侵食 ちゅ、ちゅ、とリップ音が鼓膜を舐めるように繰り返される。くらくらと、その度に指先から全身に火が点っていくようだった。無意識に腰が引けるが、腰に回された腕が程よくそれを妨げている。
     眉見の肩に手を置くと、それを合図と思ったのか殊更ゆっくり唇が合わせられた後に緩慢に離された。吐息が濡れた皮膚に当たって、妙に気恥ずかしい。口と口をくっつけていただけなのに、なんて女の子みたいなことは言わないが、一体それだけのことにどれだけ没頭していただろう。腕がするりと離れ、柔らかなベッドに手を置いて体重をかける。
     勉強会という名目だった。元より学生の多い事務所では、勉強会がよく開かれている。C.FIRSTは専ら教え役だったが、S.E.Mなど加われば話は別だ。いつしか習慣と化したそれは、ユニットの中でも緩慢に続いている。事務所に行くだけの時間がない時。例えば定期テスト中―――下手に行けばつい勉強が手に付かなくなってしまう―――とかは、互いに課題を持ち寄って百々人は秀の、眉見は百々人の問題を見る。最初は二人が眉見に遠慮したものの、受験の準備になるからと押し切られる形になった。今日もそうなる予定だったが、秀が生徒会の仕事で欠席することを知ったのがつい一時間ほど前である。今日はやめておくかと聞こうとした百々人に、眉見が自分の家に来ないかと持ち掛けて今に至る。いつもは何かと都合の良い百々人の家だったのだが、一人で来るのは―――それこそ二人が付き合い始めてから来るのは初めてだった。
    1834

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