僕の愛を受け取って【後編】フロイドと一緒にユウさんを探していると浜辺の近くの崖でその姿を見つけることができた。まだ僕を待っていてくれていたのか。僕を探してくれていたのか。浜辺は広いためもしかしたら高い所に登れば僕を見つけることができると思ったのだろう。声をかけようとしたがフロイドに腕を引っ張られて止められた。
「ジェイド、誰か来た。もしかしたら。」
フロイドの目線の先にいたのはあの人魚狩りだった。今回は1人だけのようだ。僕達は近くに身を潜めた。
「ここにいたのか。お嬢ちゃん。」
「何ですか。」
「人魚はどこだ?」
ユウさん。あなたは何て答えるのですか。握った拳に力が入る。
「何度も言いましたよ。
早くここから去ってください。こっちに来ても、人魚を捕まえることはできません。ここに人魚はいないんですから。」
「仲間が聞いたんだよ。お前がここで人魚と会う約束をしてるってなぁ。」
「なんのことですか。何度も言わせないでください!ここに人魚は来ません」
彼女は守ろうとしている。ここに来るであろう人魚を。まだ自分が会ったこともない人魚を守ろうと必死で。あの光景は地獄などではなかった。真実は彼女が人魚を、僕を守ろうとしてくれていたのだ。
「フロイド。あの男を倒します。」
「いいよ〜。やっちゃおうぜジェイド。」
茂みから僕達が出たのと同時に、人魚狩りの男が動いた。
「この女ぁ!もう手加減しねぇ」
「…っ!痛っ!」
男は彼女に掴みかかって崖から海へ突き落とした。
「ユウさん」
僕は叫んで崖から飛び込む。彼女を追い、その身体を包み衝撃を抑えるため魔法をかける。
バシャーーンっ
海に落ちる直前、自分の姿を人魚に戻す。彼女の身体を抱えて浜辺へ上がった。
僕はぐったりしている彼女に向かって必死に呼びかけた。
「ユウさんっ!ユウさんっ!」
「げほっげほっ」
「あぁユウさん。良かった。」
「ジェイドさん………?あれっ?にん、ぎょ…?」
彼女は僕の姿を見て目をパチパチさせた。
「ふふっ。そうなんです。実は僕、人魚なんですよ。」
そう聞くとハッと声を上げ、よろめく身体を起こし海へ手を伸ばした。
そして両手を器のように丸め海水をくみ…
僕の顔面へかけた。
「ちょっ、えっユウさん何を」
「だってジェイドさん人魚なんですよね?てことは陸だと干からびちゃいますよ!私が海水をかけているうちに早く海の中に潜って!」
ユウさんはそう言いながら僕の身体に海水をかけ続ける。
バシャッバシャッバシャッ
ポカンと口を開けている僕
バシャッバシャッバシャッ
その僕に必死な形相でひたすら海水をかけ続ける彼女
バシャッバシャッバシャッ
「ジェイドさん!さぁ早く!」
バシャッバシャッバシャッ
僕はその空気に耐えきれなくなり吹き出してしまった。
「ぶっアハハハッ!……すみませっふふふっ…ユウさっ…。あぁ、あのですね。少しくらいなら平気です。そんなっ…ふふっ…必死になさらなくても大丈夫なんですよ。」
「そうなんですね。…もーそんなに笑わないでくださいよー!」
「ふっ申し訳ありません。…ユウさん。僕の姿を見てどう思いますか?怖い、ですか?」
「驚きはありますけど、怖くないです。…ジェイドさんにまた会えて嬉しい。」
彼女の言葉を聞いてまた心が温かくなった。申し訳ありません。あなたを疑って、恨んで。あぁ。この人がいい。僕はこの人とずっと一緒にいたい。
「ユウさん。僕はあなたに昨日惚れてしまったんです。もっとあなたのことを知りたい。僕とお付き合いしてくださいませんか。」
ゆくゆくは番にしたい。番にするならこの人だと僕の本能が告げている気がする。出会って2日目の僕に告白されてしまった彼女は顔を赤くし、小さい声で応えてくれた。
「はい。私もジェイドさんが好きです。」
僕は喜びを抑えきれずに彼女を自分の爪で傷つけないようにしながら抱きしめた。
○●○
崖から落ちた2人を見て、男はその場を去ろうとふり返ると背の高い少年が立っていた。
「おじさんニンギョガリってやつ?」
「だったら何だ?警察につき出すのか?」
「そんなことしねーよ。めんどくさいもん。ねぇ、人魚見たことあるの?会わせてあげよっか?」
なんだ協力者かと安心した男は警戒を解いた。
「それはありがてぇな。今俺の仲間も呼ぶ。」
連絡を取ろうとポケットに手を入れた。するとガッと少年に腕を掴まれズリズリと引きずられる。
「おい何をする!」
先程2人が落ちた崖縁へ凄まじい力で引きずられ焦る男に、少年はのんびりとした口調で
「え〜だから〜。これからオレが人魚に会わせてあげるんじゃん。」
そう言って少年は男の腕を掴んだまま海へと落ちていく。ゆっくり、少年と男は落ちていく。男はみるみる変わっていく少年の姿に驚愕した。
「はじめましてぇ〜。人魚です♪」
「ギャーーーー」
その後海に落ちたもののなんとか一命を取り戻した男だったが、人魚に殺されかけ海に落ちたことがトラウマとなり、人魚狩りをやめた。
○●○
「ジェイド〜終わったよ〜。」
フロイドが海から顔を出し、左手を上げてこちらに手を振った。
「あの人も人魚ですか?」
「えぇ。僕の兄弟のフロイドです。」
フロイドも浜辺に上がった。そして僕の肩に顎を乗せて彼女を見つめる。
「はじめましてぇ〜。フロイドです♪」
「はじめまして。ユウです。」
「僕の番のユウさんですよ。フロイド。」
「番って何ですか?」
「それは「ユウさん!大丈夫ですかーー」」
番について説明しようとした僕の声を遮るように登場したのは学園長だった。
「お父さん!」
……今なんと?オトウサン?…は
混乱している僕にユウさんが言った。
「ジェイドさん。こちら、私を養子にしてくれている義父のディア・クロウリーさんです。」
○●○
僕達は学園に戻り、学園長室にいる。
「昨日ユウさんから聞いたときは驚きました。だって髪がターコイズブルーで黒いメッシュの長身の男性なんて言うんですよ。もうあなたかフロイドくんの可能性が高いではありませんかうちの生徒に会わせるのはどうかと思いましたが別人の可能性もありますし。でかけた先で万が一何か危ないことがあれば駆けつけられるように魔法をかけたネックレスをユウさんにつけてもらって送り出したんです。」
「おやおや。では僕がユウさんを助ける必要はなかったと?はぁしょんぼり。」
「そんなに落ち込まないで、ジェイドさん。」
「ユウさん!あぁなんてお優しい。さすがは僕の…」
「ちょっと何なんですかあなた達!その甘酸っぱーい雰囲気は!」
「あっ、お父さん!私ジェイドさんとお付き合いすることになりました!」
「はぁ」
「そうなんです。“お義父さん”」
「“お義父さん”ジェイドくんあなた今“お義父さん”って言いましたよねニュアンスで分かりましたよ!もー!私は少しユウさんにお話があります!」
それから僕は、隅で欠伸をしていたフロイドと一緒に部屋を追い出され寮へ戻るように言われた。
「あはっ。まさか小エビちゃんの保護者が学園長だなんてびっくりだね。」
「小エビちゃんとはユウさんのことですか?」
「そーかわいいでしょ。」
「えぇとても。ですが僕は例えフロイドでも」
「分かってるよ〜。小エビちゃんは俺の義妹でジェイドの番!もー独占欲強すぎ〜。」
フロイドと顔を見合わせて笑った。
「…よかったねジェイド。」
「…えぇ。フロイド、あのとき僕を支えてくれてありがとうございました。」
「オレちょ〜優しいでしょ?」
「とっても。僕の自慢の片割れです。」
真実を確かめず勘違いしたまま、彼女と離れ離れになっていたかもしれないと思うとゾッとした。フロイドには感謝してもしきれない。
ユウさん。僕の恋人。僕の番。
まだあなたに会ってから2日しか経っていないのにこんなにも愛おしい。
これからたくさん僕の愛を受け取って。
○●○
1年後
人間に恋をした人魚の少年は、番が自分の家族に会えなくなったことが分かった。少年は同情したが同時に歓喜した。愛している人と永遠に一緒にいられると確信したから。
人魚に恋をした人間の少女は、元の世界に帰れないことが分かった。少女はそれでも良かった。愛している人と一緒にいられるから。
それからさらに3年後
人魚の少年は大人になり、白いタキシードを着ている。
人間の少女も大人になり、白いウェディングドレスを着ている。
今日は人魚と人間の結婚式。海が見える教会で行われる。
2人はここで、この世界で、永遠の愛を誓い合うのだ。
End