恋煩い 頭痛、吐き気、眩暈、身体の痛み、それらは常のことであるからにして、今更この不調をどうにかしようとは思わない。それは己の責務からの逃げとなるからだ。
「鍾離様……」
モラクスとの契約は終わったが、それ以外の生きる術を知らない魈にとって、近頃なんとなく鍾離のことを考える時間が増えていた。鍾離とゆっくり茶を飲み、話を聞き、共に璃月を散策する穏やかな時間は、己の心を落ち着かせ、穏やかな気分にさせてくれる。それは一過性のものではあるものの、ふとした時に思い出しては、心の支えにしていた。今もそうだ。降魔を終え、ほっと息を吐き、昨日お会いした時の鍾離の笑顔を思い出して気を保っていた。すると、特に休息を得なくても身体が軽くなって、次の戦闘へと身を投じることができていた。食欲もいつにも増してなくなっていたが、気にする程ではなかった。しかし、近頃は鍾離のことを思い浮かべると、それ以上に胸が苦しくなってくるので不思議であった。思わず木の幹に手をつき、胸を押さえた。呼吸が乱れる。心臓の音がうるさい。
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